2025.01.21
現場報告
新潟県関川村
小さな村が国の支援策を使ってみた

地域に立ちふさがる様々な課題に対し、予算もなく、専門家もいない小さな農山村が、国の支援策をどのように活用し、課題解決に取り組んだのか? 国の制度を実際に使ってみて初めてわかったことや、率直な反省点も含めて、小さな村の現場からの声をご報告します。
新潟県の北東部、岩船郡に属する関川村の事例です。この村は新潟市から約60km、豊かな自然と名湯の里として名高い農山村です。村の面積は299.6㎢、大部分は山林で林野が約88%を占めます。県内の約100市郡町村が大合併した「平成の合併」には参画せず、1954年の村発足以来、村の体制を維持し続けている全国でも珍しい自治体です。村内には54の集落があり、約1810世帯、約4700人が暮らしています。
「人口減少、高齢化が進み、村の活力が低下していました。地域の課題解決には、専門知識を持ち、外部の観点から判断できる〝よそ者〟が必要というのは役場の全員の思いでした」
そう語るのは、村役場の地域政策課課長(当時)の大島祐治さんに国の支援制度を活用した外部人材募集の取組みについて伺いました。
新潟県の北東部、岩船郡に属する関川村の事例です。この村は新潟市から約60km、豊かな自然と名湯の里として名高い農山村です。村の面積は299.6㎢、大部分は山林で林野が約88%を占めます。県内の約100市郡町村が大合併した「平成の合併」には参画せず、1954年の村発足以来、村の体制を維持し続けている全国でも珍しい自治体です。村内には54の集落があり、約1810世帯、約4700人が暮らしています。
「人口減少、高齢化が進み、村の活力が低下していました。地域の課題解決には、専門知識を持ち、外部の観点から判断できる〝よそ者〟が必要というのは役場の全員の思いでした」
そう語るのは、村役場の地域政策課課長(当時)の大島祐治さんに国の支援制度を活用した外部人材募集の取組みについて伺いました。
関川村の現状と課題
「関川村の基幹産業は農業ですが、農家の数はこの20年間で半減。林業も木材価格が低迷し、どのように資源の価値化を図っていくか、が村の大きな課題です。また、就労の場、種類とも少ないので若者の大半は村外で就職し、そのまま村外に移住という流れが進んでいます」
すでに多くの課題を抱えていた村役場に、大島さんが入庁したのは1997年のことでした。「農林課、企画観光課、総務課を経て、地域政策課の課長になりました。担当業務は、村の総合計画、総合戦略、人口ビジョンや過疎対策の計画作りなど地域振興全般。職員3名体制で、村に必要な仕事を、なんとかこなしているのが実態です」
それとは別に交流定住班の仕事も兼務となり、空き家対策、交流人口の増加促進、移住定住対策、観光振興… …と、業務は多忙を極めました。さらに、「脱炭素」にも取り組んでいます。
「脱炭素関連は職員と外部人材を1名ずつ、計2名体制で業務に当たっています。脱炭素の流れを新たな地域活性化策につなげるため、私が取りまとめる形で国の『先行地域公募』に動き出し、その流れで地域政策課内に『脱炭素推進室』ができ、私が兼務することになりました。
地域課題については〝人口減少による地域活力の低下〟が一番大きな問題です。一方で脱炭素の推進は、関川村の資源価値をより高いものに変えます。どちらも大切です」
すでに多くの課題を抱えていた村役場に、大島さんが入庁したのは1997年のことでした。「農林課、企画観光課、総務課を経て、地域政策課の課長になりました。担当業務は、村の総合計画、総合戦略、人口ビジョンや過疎対策の計画作りなど地域振興全般。職員3名体制で、村に必要な仕事を、なんとかこなしているのが実態です」
それとは別に交流定住班の仕事も兼務となり、空き家対策、交流人口の増加促進、移住定住対策、観光振興… …と、業務は多忙を極めました。さらに、「脱炭素」にも取り組んでいます。
「脱炭素関連は職員と外部人材を1名ずつ、計2名体制で業務に当たっています。脱炭素の流れを新たな地域活性化策につなげるため、私が取りまとめる形で国の『先行地域公募』に動き出し、その流れで地域政策課内に『脱炭素推進室』ができ、私が兼務することになりました。
地域課題については〝人口減少による地域活力の低下〟が一番大きな問題です。一方で脱炭素の推進は、関川村の資源価値をより高いものに変えます。どちらも大切です」
なぜ国の制度を使うのか?
「以前から、地域課題について村長が地域の皆さんと直接話し合う会議を開催して、そこで出た話を持ち帰って内部で検討を加えていました。村長からの『外部から見たら非常識と思えることが、案外あるのではないか』という、ひと言で、地域課題解決のためには外部目線が必要だと強く意識するようになりました。しかし、そうは簡単に村外の人材は見つかりません。そんななか、活用を考えたのが国の制度である『地方創生人材支援制度』でした」
村が必要としているのは、専門知識を有する人、民間での業務経験をこの村で生かして、外からの目線で業務に携わってくれることのできる人材です。
「その後、2022年度に内閣府が地方創生人材支援制度に『グリーン専門人材』という新たな部門を新設しました。この制度を使って、脱炭素に向けて、専門的かつ外部的観点から判断してくれる人材こそ、今、必要なのではないか、と閃きました。
しかし、民間企業の人材に、どういう目的を持って来てもらうのか? 村の事業目的や計画、開始時期、必要な人材をどうすれば明確に伝えられるのか? さまざまな不安がありました。
関川村では、村の将来を見据えた新事業や事業改革のため、観光活性化、脱炭素推進、DX推進の3部門での人材募集を決定しました。脱炭素推進としては前述のように、環境省が2050年のカーボンニュートラルに向けて定めた2030年度目標と整合する二酸化炭素排出の削減を地域特性に応じて実現させる「脱炭素先行地域」にも応募することになりました。
「グリーン専門人材を活用して、村として何をお願いするかは、手を挙げていただいた企業さんと話し合いをするなかで決めよう、先行地域に採択されたら、採算性等を意識して発電設備の選定業務などもお任せしようと、最初は考えていました。同時に、再エネの最大限導入を計画的に進めるための戦略なども、外部人材に入ってもらうことで民間の目線で策定してもらうことができるのではないか、と考えていました。さらに、運営体制や、この計画が現実的なものなのかなど、外部目線で評価判断、実施してもらいたいという思いもありました」
大島さんは、申請書にある「協議希望企業」の「グリーン専門人材」欄に4社の社名を記載しました。すると、そのなかの3社から「協議可能」との返答を受けました。さらに、もう1社、村側は記載しなかったけれど企業側から「協議可能」と手を挙げる会社が現れたのです。
村が必要としているのは、専門知識を有する人、民間での業務経験をこの村で生かして、外からの目線で業務に携わってくれることのできる人材です。
「その後、2022年度に内閣府が地方創生人材支援制度に『グリーン専門人材』という新たな部門を新設しました。この制度を使って、脱炭素に向けて、専門的かつ外部的観点から判断してくれる人材こそ、今、必要なのではないか、と閃きました。
しかし、民間企業の人材に、どういう目的を持って来てもらうのか? 村の事業目的や計画、開始時期、必要な人材をどうすれば明確に伝えられるのか? さまざまな不安がありました。
関川村では、村の将来を見据えた新事業や事業改革のため、観光活性化、脱炭素推進、DX推進の3部門での人材募集を決定しました。脱炭素推進としては前述のように、環境省が2050年のカーボンニュートラルに向けて定めた2030年度目標と整合する二酸化炭素排出の削減を地域特性に応じて実現させる「脱炭素先行地域」にも応募することになりました。
「グリーン専門人材を活用して、村として何をお願いするかは、手を挙げていただいた企業さんと話し合いをするなかで決めよう、先行地域に採択されたら、採算性等を意識して発電設備の選定業務などもお任せしようと、最初は考えていました。同時に、再エネの最大限導入を計画的に進めるための戦略なども、外部人材に入ってもらうことで民間の目線で策定してもらうことができるのではないか、と考えていました。さらに、運営体制や、この計画が現実的なものなのかなど、外部目線で評価判断、実施してもらいたいという思いもありました」
大島さんは、申請書にある「協議希望企業」の「グリーン専門人材」欄に4社の社名を記載しました。すると、そのなかの3社から「協議可能」との返答を受けました。さらに、もう1社、村側は記載しなかったけれど企業側から「協議可能」と手を挙げる会社が現れたのです。
こうやって人材を絞り込む
面談調整の際に「村を見たいので伺います」と言う企業もあったそうです。しかし大島さんは、まず人事担当者とオンラインで30分から1時間ほど面談をすることにしました。
「職員数が少なくて困っている自治体は、オンライン面談を活用するといいと思います。面談をしてみて、こちらの希望条件すべてがそろっている人は、なかなかいないと感じました。もっとも要望以外のことでも、村の課題をすごく親身に考えてくださる人事担当者は、いらっしゃいました。その意味では、まず派遣を申し込んでみることは有意義だと思います」
オンライン面談の時もヒアリングシートを事前に準備し、面談の前に、先方がどういう企業かを綿密に調べておけばよかった、というのは、じつは大島さん自身の反省点です。
今は3種類のヒアリングシートを用意しているそうです。まず、ひとつめは「企業面談用シート」。協定候補企業の比較ができるよう、企業概要、主な派遣実績、特徴、企業人、委託費(特別交付措置)、担当評価、備考の項目が並びます。
「『地域活性化起業人制度』も併用できるので、併用する旨を最初から特別交付措置の欄に書いておくと後々調べなくて済みます。担当者の派遣候補者に対する評価も記入します。面談をすると予定条件以外の部分が見えてきますので、それらは備考欄に書いておくといいです」
ふたつ目は「対象者用比較シート」。雇用体系の一覧として活用するもので、業務内容、氏名、年齢、派遣元、派遣期間、常勤非常勤の別、企業人摘要、身分、予算措置、就業規則等、委託料、給与等、赴任・帰任費用、社会保険、住居費用等、通勤費、出勤管理、その他、想定住居地、家族の異動の有無の20項目です。
「このシートは、企業さんの雇用のノウハウを記入するのが主な目的になります。企業を決めたら、派遣者の経歴を記載して面談に臨むのがいいと思います」
3つ目は「最終面談シート」です。大島さんは、派遣候補者の人柄やコミュニケーション力などを記入するようにしました。
「うちの村では、民間派遣人材の雇用体系の一覧表と、企業のそれとを比較して絞り込み、最終面談で各社のエースを集めました。最終判断は3種のシートで比較し、村の要望に応えてくれる人材を選んで、村長を交えた最終面談にまで進めまることにしました」
「職員数が少なくて困っている自治体は、オンライン面談を活用するといいと思います。面談をしてみて、こちらの希望条件すべてがそろっている人は、なかなかいないと感じました。もっとも要望以外のことでも、村の課題をすごく親身に考えてくださる人事担当者は、いらっしゃいました。その意味では、まず派遣を申し込んでみることは有意義だと思います」
オンライン面談の時もヒアリングシートを事前に準備し、面談の前に、先方がどういう企業かを綿密に調べておけばよかった、というのは、じつは大島さん自身の反省点です。
今は3種類のヒアリングシートを用意しているそうです。まず、ひとつめは「企業面談用シート」。協定候補企業の比較ができるよう、企業概要、主な派遣実績、特徴、企業人、委託費(特別交付措置)、担当評価、備考の項目が並びます。
「『地域活性化起業人制度』も併用できるので、併用する旨を最初から特別交付措置の欄に書いておくと後々調べなくて済みます。担当者の派遣候補者に対する評価も記入します。面談をすると予定条件以外の部分が見えてきますので、それらは備考欄に書いておくといいです」
ふたつ目は「対象者用比較シート」。雇用体系の一覧として活用するもので、業務内容、氏名、年齢、派遣元、派遣期間、常勤非常勤の別、企業人摘要、身分、予算措置、就業規則等、委託料、給与等、赴任・帰任費用、社会保険、住居費用等、通勤費、出勤管理、その他、想定住居地、家族の異動の有無の20項目です。
「このシートは、企業さんの雇用のノウハウを記入するのが主な目的になります。企業を決めたら、派遣者の経歴を記載して面談に臨むのがいいと思います」
3つ目は「最終面談シート」です。大島さんは、派遣候補者の人柄やコミュニケーション力などを記入するようにしました。
「うちの村では、民間派遣人材の雇用体系の一覧表と、企業のそれとを比較して絞り込み、最終面談で各社のエースを集めました。最終判断は3種のシートで比較し、村の要望に応えてくれる人材を選んで、村長を交えた最終面談にまで進めまることにしました」
派遣者を受け入れるときの課題

移住者の受け入れには、とかく想定外の出来事がつきものです。村民にとっては、ごく当たり前の日常生活でも、雪国や田舎暮らしの経験がない移住者には驚くことも多いものです。
「困ったのは民間アパートが少なく、本人の希望にかなう住居が、なかなか見つからなかったことですね。皆さんには民間、村営アパートそれぞれで暮らしてもらっています。初めての田舎暮らしの方を受け入れていくなかで、不便な点や良かったと思う点など、いろいろと見えてきたことで、移住政策にも生かせるのではないかなと実感しました」
派遣期間の勤務条件や有給休暇など、労務管理や契約上の注意事項も多くありました。
「派遣先の村にはない『リフレッシュ休暇』や『帰省手当』など、出せないものは出せない、と、はっきり伝えたほうが、先方にも迷惑をかけずに済みます」企業と契約協定を結ぶ際は、期限までに余裕をみて先方に提出し、締結へと進めていくと、とてもスムーズに進むこともわかりました。
「協定書締結の際に地域活性化起業人制度を併用する場合、専用の協定書の作り込み方があります。この点にも留意して申請されることをお勧めします」
本来「採用した後」が重要なのに、「採用すること」に注力するあまり、人を採ること自体が目的になってしまうと、本末転倒です。
関川村は第1回脱炭素先行地域には選定されませんでしたが、派遣者の受け入れ後、第2回で選定を受けます。
「先行地域のミッションは『豪雪農山間地域モデル事業』の提案と実現化です。同じような条件の地域で生かせるモデルとして、他の地域にも提案できるようなしくみや技術の創成が、先行地域である私たちに課せられた使命だと思っています」
たとえば、景色として見ていた山を価値ある地域資源として最大化できるようにしたり、地域マイクログリッド(自給自足送配電)を構築して再エネの有効利用を図り、防災レジリエンス(耐久力)の強化を図る。その効果を生かせるモデル事例を作り、実用化へと進めるといったことです。
「今回、関川村では、村の中心部をエリア設定し、新電力も立ち上げ、多様な再エネ事業計画を進めています。これには地域外の皆さんからも『脱炭素化をうちの地域でもできないか』と、これまでにない問い合わせをいただいています。また、村民の皆さんや村議会議員からはグリーン専門人材で選ばれた方に、『他にも何かできないですか?』という相談の声も出てきました。この取り組みを前向きに捉えてくれていると思える声が、徐々に増えている状況です。
外部人材支援制度は、上手に生かすと村がうまく進展し、事業を進める大きな力になってくれると思います。皆さんも、ぜひ、うまくご活用なさってください」
「困ったのは民間アパートが少なく、本人の希望にかなう住居が、なかなか見つからなかったことですね。皆さんには民間、村営アパートそれぞれで暮らしてもらっています。初めての田舎暮らしの方を受け入れていくなかで、不便な点や良かったと思う点など、いろいろと見えてきたことで、移住政策にも生かせるのではないかなと実感しました」
派遣期間の勤務条件や有給休暇など、労務管理や契約上の注意事項も多くありました。
「派遣先の村にはない『リフレッシュ休暇』や『帰省手当』など、出せないものは出せない、と、はっきり伝えたほうが、先方にも迷惑をかけずに済みます」企業と契約協定を結ぶ際は、期限までに余裕をみて先方に提出し、締結へと進めていくと、とてもスムーズに進むこともわかりました。
「協定書締結の際に地域活性化起業人制度を併用する場合、専用の協定書の作り込み方があります。この点にも留意して申請されることをお勧めします」
本来「採用した後」が重要なのに、「採用すること」に注力するあまり、人を採ること自体が目的になってしまうと、本末転倒です。
関川村は第1回脱炭素先行地域には選定されませんでしたが、派遣者の受け入れ後、第2回で選定を受けます。
「先行地域のミッションは『豪雪農山間地域モデル事業』の提案と実現化です。同じような条件の地域で生かせるモデルとして、他の地域にも提案できるようなしくみや技術の創成が、先行地域である私たちに課せられた使命だと思っています」
たとえば、景色として見ていた山を価値ある地域資源として最大化できるようにしたり、地域マイクログリッド(自給自足送配電)を構築して再エネの有効利用を図り、防災レジリエンス(耐久力)の強化を図る。その効果を生かせるモデル事例を作り、実用化へと進めるといったことです。
「今回、関川村では、村の中心部をエリア設定し、新電力も立ち上げ、多様な再エネ事業計画を進めています。これには地域外の皆さんからも『脱炭素化をうちの地域でもできないか』と、これまでにない問い合わせをいただいています。また、村民の皆さんや村議会議員からはグリーン専門人材で選ばれた方に、『他にも何かできないですか?』という相談の声も出てきました。この取り組みを前向きに捉えてくれていると思える声が、徐々に増えている状況です。
外部人材支援制度は、上手に生かすと村がうまく進展し、事業を進める大きな力になってくれると思います。皆さんも、ぜひ、うまくご活用なさってください」