2025.03.17
現場報告
太陽と共に未来を耕す 再エネと農業の融合 埼玉県東松山市
埼玉県のほぼ中央に位置する東松山市。人口約9万人のこの街は、都心から60km圏内にありながら、豊かな自然に恵まれた地域です。しかし、こんなに都心に近い東松山市でも、多くの地方都市同様、人口減少や農業の衰退という地方都市共通の課題に直面しています。
そんな東松山市で、農業と再生可能エネルギーの共生を目指す、まちあす式のプロジェクトが始動しました。東急不動産が主導するこのプロジェクトは、「ソーラーシェアリング」を軸に、地域に根ざした新たなまちづくりに挑戦しています。
そんな東松山市で、農業と再生可能エネルギーの共生を目指す、まちあす式のプロジェクトが始動しました。東急不動産が主導するこのプロジェクトは、「ソーラーシェアリング」を軸に、地域に根ざした新たなまちづくりに挑戦しています。

ソーラーシェアリングが切り拓く未来
ソーラーシェアリングとは、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置し、農業と発電を両立させる取り組みです。東松山市では、「リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所」が、約5221㎡の敷地で、この革新的な取り組みを展開しています。

東松山でのプロジェクトを率いる古田誠さん(東急不動産インフラ・インダストリー事業ユニット 環境エネルギー事業本部環境エネルギー事業第一部統括部長)は、プロジェクトの意義を、こう語ります。
「日本の食料自給率とエネルギー自給率の低さは大きな社会課題です。農業をしながら再生可能エネルギーをつくり出すソーラーシェアリングは、その両方を大きく改善させる可能性があります」
リエネソーラーファーム東松山は2022年12月に稼働しました。発電出力は直流(DC)378.78kW、交流(AC)248kWですが、このプロジェクトの真価は単に農地を有効活用した発電を可能にしただけではありません。
古田さんは「発電による収益を農業に還元することで、農家所得の向上や安定につながります。農業を適切に継続しながら農家所得にもプラスに働くしくみをつくり上げていけば、これから農業をやりたいと思う人を増やすことにつながると考えています」と、ソーラーシェアリングの可能性を強調します。
「日本の食料自給率とエネルギー自給率の低さは大きな社会課題です。農業をしながら再生可能エネルギーをつくり出すソーラーシェアリングは、その両方を大きく改善させる可能性があります」
リエネソーラーファーム東松山は2022年12月に稼働しました。発電出力は直流(DC)378.78kW、交流(AC)248kWですが、このプロジェクトの真価は単に農地を有効活用した発電を可能にしただけではありません。
古田さんは「発電による収益を農業に還元することで、農家所得の向上や安定につながります。農業を適切に継続しながら農家所得にもプラスに働くしくみをつくり上げていけば、これから農業をやりたいと思う人を増やすことにつながると考えています」と、ソーラーシェアリングの可能性を強調します。

ソーラーシェアリングの特徴は、農業と発電の両立にあります。リエネソーラーファーム東松山では、水稲をはじめ、人参、ブルーベリー、枝豆など多様な作物を栽培しています。パネルは地上約3〜4.5mの高さに設置され、農作業に支障がないよう配慮されています。
「パネルの下で育つ作物は、日射量が調整されることで高温障害を受けにくいという利点もあります。気候変動の影響で従来の栽培が難しくなっている作物にとって、新たな可能性を示唆しているのです。また、農業の担い手不足や高齢化により、耕作放棄地が増加していますが、ソーラーシェアリングなら、こうした土地を再び農地として活用できるのです。耕作放棄地の再生は、食料自給率の向上にも寄与すると考えています」
「パネルの下で育つ作物は、日射量が調整されることで高温障害を受けにくいという利点もあります。気候変動の影響で従来の栽培が難しくなっている作物にとって、新たな可能性を示唆しているのです。また、農業の担い手不足や高齢化により、耕作放棄地が増加していますが、ソーラーシェアリングなら、こうした土地を再び農地として活用できるのです。耕作放棄地の再生は、食料自給率の向上にも寄与すると考えています」
汗をかいてつくる地域との信頼関係
東松山市でのプロジェクトの特筆すべき点は、地域との密接な連携です。
「プロジェクトの立ち上げ時、太陽光パネルを設置させてもらえる場所を見つけるのに苦労しました。最終的に、農業以外にもいろんな事業をやっていて、新しい取り組みに関心が強い農家さんの休耕地でスタートしました。みんなに見える場所なので、良い取り組みだと認められれば広げていけるはず、という期待がありました」
しかし、農家は多忙で、常にプロジェクトに合わせて農耕対応できるわけではありませんでした。そこで、東急不動産のチームメンバーたちが農業を手伝うようになったのです。
「太陽光パネルの周辺は耕作機械が入れず、手で田植えをする必要があります。そこで、手作業での田植えを手伝ったチームメンバーが、田植えのすばらしさに感動して、積極的に手伝うようになりました。そんな部分から農家の方々との信頼関係も醸成されていったのです」
こうした地道な取り組みが、プロジェクトへの理解を広げ、さらなる協力関係の構築につながっていきました。
「最近では、『うちでもやりたい』と申し出てくれる農家の方も増えてきました。
私たちの理念に共感し、自らも参画したいという方が増えているのです。地域の方々の理解と協力なくしては、このプロジェクトは成り立ちません」
「プロジェクトの立ち上げ時、太陽光パネルを設置させてもらえる場所を見つけるのに苦労しました。最終的に、農業以外にもいろんな事業をやっていて、新しい取り組みに関心が強い農家さんの休耕地でスタートしました。みんなに見える場所なので、良い取り組みだと認められれば広げていけるはず、という期待がありました」
しかし、農家は多忙で、常にプロジェクトに合わせて農耕対応できるわけではありませんでした。そこで、東急不動産のチームメンバーたちが農業を手伝うようになったのです。
「太陽光パネルの周辺は耕作機械が入れず、手で田植えをする必要があります。そこで、手作業での田植えを手伝ったチームメンバーが、田植えのすばらしさに感動して、積極的に手伝うようになりました。そんな部分から農家の方々との信頼関係も醸成されていったのです」
こうした地道な取り組みが、プロジェクトへの理解を広げ、さらなる協力関係の構築につながっていきました。
「最近では、『うちでもやりたい』と申し出てくれる農家の方も増えてきました。
私たちの理念に共感し、自らも参画したいという方が増えているのです。地域の方々の理解と協力なくしては、このプロジェクトは成り立ちません」
交流の拠点となったTENOHA東松山

『TENOHA東松山』は、延床面積約616㎡の2階建て施設で、カフェやコワーキングスペース、イベントスペースを備えています。「FARM to TABLE 農家さんから食卓へ」をコンセプトに、カフェではソーラーシェアリングの耕作地で栽培された農作物を使用したメニューを提供しています。
おしゃれなカフェとして若者を中心に人気を集めており、SNSでの発進も盛んです。「東松山と言えば」という新たなイメージの創出にまでつながっており、地域のブランディングにも貢献しています。
おしゃれなカフェとして若者を中心に人気を集めており、SNSでの発進も盛んです。「東松山と言えば」という新たなイメージの創出にまでつながっており、地域のブランディングにも貢献しています。

「TENOHAのカフェには、市長の奥さんも、よく利用してくださっています。地域の人間関係の広がりによって利用者が増え、ソーラーシェアの事業への理解が進んでいるのです」
と、古田さんは、地域との人間関係に基づく交流の重要性を強調します。
さらに、TENOHA東松山は、新技術の実証実験の場としても機能しています。ルーフトップソーラー、蓄電池実証、ソーラーカーポート、V2Xチャージャー、地中埋め込み型パネル、壁面パネルなど、太陽光発電に関わる大企業やベンチャー企業が提供する最新の蓄電池の新技術を、ふんだんに盛り込んだ施設になっています。TENOHA東松山は、最新の太陽光発電、蓄電に関するショールームとして、業界からも注目されているといいます。
「たとえば、フレキシブルソーラーパネルは、わずか3日で設置が完了する画期的な技術です。また、V2Xチャージャーを使って、電気自動車から建物への給電実験も行っています。これらの技術が、将来の持続可能なエネルギーシステムの鍵となるかもしれません」
と、古田さんは、地域との人間関係に基づく交流の重要性を強調します。
さらに、TENOHA東松山は、新技術の実証実験の場としても機能しています。ルーフトップソーラー、蓄電池実証、ソーラーカーポート、V2Xチャージャー、地中埋め込み型パネル、壁面パネルなど、太陽光発電に関わる大企業やベンチャー企業が提供する最新の蓄電池の新技術を、ふんだんに盛り込んだ施設になっています。TENOHA東松山は、最新の太陽光発電、蓄電に関するショールームとして、業界からも注目されているといいます。
「たとえば、フレキシブルソーラーパネルは、わずか3日で設置が完了する画期的な技術です。また、V2Xチャージャーを使って、電気自動車から建物への給電実験も行っています。これらの技術が、将来の持続可能なエネルギーシステムの鍵となるかもしれません」
プロジェクトがもたらす波及効果
東松山市の、まちあすプロジェクトは、農業の活性化だけでなく、企業の脱炭素経営にも貢献しています。たとえば、リエネソーラーファーム東松山で発電された電力は2023年4月から2年間、株式会社髙島屋グループの髙島屋横浜店、高崎店に供給されています。これは、企業の電力調達手法の多様化の試みにもつながっているわけです。
「隣の川島町では新規就農者支援を行っています。ここで広域法人のようなものをつくり、若手農業者がこの発電所も含めて育てていくことができないか、というディスカッションをしています。また、隣の消防署に電力を供給したこともあります。地産地消の電気、かつ、再生可能エネルギーであることに加え、電気代が高騰したタイミングでもあったので、この提案は非常に歓迎されました」
東松山市の事例は、経済産業省、環境省、農水省の官僚、そして埼玉県内の春日部市、川島町、白岡市などの首長が視察に訪れるなど、太陽光事業と地域の共生のモデルケースとして行政各所からも注目を集めています。
このプロジェクトは、地域経済の活性化にも寄与しています。
「ソーラーシェアリングによる収益で、農家の所得も向上します。またTENOHA東松山の運営や、関連するイベントの開催などを通じて、新たな雇用も生まれます。エネルギーと食料の地産地消が地域経済を循環させる。そんな持続可能な地域モデルを目指しています」
「隣の川島町では新規就農者支援を行っています。ここで広域法人のようなものをつくり、若手農業者がこの発電所も含めて育てていくことができないか、というディスカッションをしています。また、隣の消防署に電力を供給したこともあります。地産地消の電気、かつ、再生可能エネルギーであることに加え、電気代が高騰したタイミングでもあったので、この提案は非常に歓迎されました」
東松山市の事例は、経済産業省、環境省、農水省の官僚、そして埼玉県内の春日部市、川島町、白岡市などの首長が視察に訪れるなど、太陽光事業と地域の共生のモデルケースとして行政各所からも注目を集めています。
このプロジェクトは、地域経済の活性化にも寄与しています。
「ソーラーシェアリングによる収益で、農家の所得も向上します。またTENOHA東松山の運営や、関連するイベントの開催などを通じて、新たな雇用も生まれます。エネルギーと食料の地産地消が地域経済を循環させる。そんな持続可能な地域モデルを目指しています」
「農業の持続可能性」へのさらなる貢献
ソーラーシェアリングの普及には課題もあります。
古田さんの指摘によれば、ソーラーシェアの事業はいかに農業を適切に継続して運営できるかが重要ですが、一部では収穫量や品質を十分に確保できていない例もあるといいます。また、初期投資の高さも課題のひとつです。
「パネルを通常よりも高い場所に設置したり、深く杭を打ったりするため、一般のソーラー発電よりも設置のためのコストがかかります」
しかし、これらの課題を乗り越え、東松山モデルを他地域に展開していく可能性は十分にあります。近隣自治体からの視察が増えているのは、その期待と関心の表れといえるでしょう。
「このプロジェクトは、単なる発電事業ではありません。農業やエネルギー、地方の未来を見据えた取り組みです。たとえば、ドローンを使った種まきや、AIを活用した収穫予測など、スマート農業との連携も視野に入れています。また、エネルギーの完全な地産地消モデルの構築も目指しています」
初期投資の問題に対しては、自治体との連携による補助金の活用なども検討しており、農業技術の向上については、地元の農業専門家との協力体制の強化を進めているとのこと。
東松山市でのプロジェクトは、農業と再生可能エネルギーの共生という新たなモデルを提示しています。それは単なる発電事業ではなく、地域に根ざし、地域と共に成長する持続可能なまちづくりの試みです。
「食料とエネルギーは国家安全保障にも関わる重要な課題です。これらを両立させるには、研究開発を続けるしかありません。未来の日本の農業のあり方を考え続けるメンバーが今、このプロジェクトに関わっています」と古田さんは語ります。
東松山の大空に広がるソーラーパネルは、持続可能な社会への道しるべとなるかもしれません。
古田さんの指摘によれば、ソーラーシェアの事業はいかに農業を適切に継続して運営できるかが重要ですが、一部では収穫量や品質を十分に確保できていない例もあるといいます。また、初期投資の高さも課題のひとつです。
「パネルを通常よりも高い場所に設置したり、深く杭を打ったりするため、一般のソーラー発電よりも設置のためのコストがかかります」
しかし、これらの課題を乗り越え、東松山モデルを他地域に展開していく可能性は十分にあります。近隣自治体からの視察が増えているのは、その期待と関心の表れといえるでしょう。
「このプロジェクトは、単なる発電事業ではありません。農業やエネルギー、地方の未来を見据えた取り組みです。たとえば、ドローンを使った種まきや、AIを活用した収穫予測など、スマート農業との連携も視野に入れています。また、エネルギーの完全な地産地消モデルの構築も目指しています」
初期投資の問題に対しては、自治体との連携による補助金の活用なども検討しており、農業技術の向上については、地元の農業専門家との協力体制の強化を進めているとのこと。
東松山市でのプロジェクトは、農業と再生可能エネルギーの共生という新たなモデルを提示しています。それは単なる発電事業ではなく、地域に根ざし、地域と共に成長する持続可能なまちづくりの試みです。
「食料とエネルギーは国家安全保障にも関わる重要な課題です。これらを両立させるには、研究開発を続けるしかありません。未来の日本の農業のあり方を考え続けるメンバーが今、このプロジェクトに関わっています」と古田さんは語ります。
東松山の大空に広がるソーラーパネルは、持続可能な社会への道しるべとなるかもしれません。