これがまちあすの考える地方創生(3)

環境まちづくり支援機構(まちあす)の考える〝持続可能なまちづくり〟とは、どんなものなのか?
地域の魅力や活力を高めるためになにができるのか?
まちあすの思い描く地方創生の未来図を、ご説明します。

3.私たちの立ち位置

曖昧な「まちづくり」の概念

私たちは、まちあすの活動を始めるときに、地方創生に関わる多くの方々のお話をうかがい、それぞれの視点とノウハウを参考にさせていただきました。
その結果、まちあすの限られたリソースでできることは「なにか」を見極めることが極めて重要だと感じました。
それは、まさに「まちづくり」に似ているのです。
「まちづくり」ということばが生まれたのは1970年頃で、「コミュニティ」ということばの誕生と同時期でした。日本屈指の地域政策プランナーの田村明氏によると、「まちづくりとは、一定の地域に住む人々が、自分たちの生活を支え、便利に、より人間らしくしていくための、共同の場をいかに作るかということである」(『まちづくりの発想』岩波書店)と、定義されています。
さまざまな有識者が複数の視点で「まちづくり」を表現していますが、まとめると「身近な居住環境を改善し、地域の魅力や活力を高める」ことといえます。
このような曖昧模糊とした概念ですから、プロジェクトとして推進するときには、迷走してしまうことも多いようです。

ゴールを見極める

土地活用の観点、防災の観点、子育て・教育の観点、観光や産業振興の観点など、それぞれの観点によって「まちづくり」で目指すべきゴールが異なり、方向性が共有できません。十人十色のコンセプトでは、狙うべきゴールも不明確になってしまうのです。
社会が成熟するにつれて、「まちづくり」は一層難解になっていきます。「まちづくり」をプロジェクトとして推進していく際には、ゴールの設定・共有と、それに伴う施策の特定が重要となります。

「地方創生」にしても、またしかりです。
地方には、自分たちの課題解決こそが地方創生だと考えている人が多く、言ってみれば地方ごとに地方創生の概念は異なるのです。
したがって地方創生においても「まちづくり」と同様、まちあすとしてゴールを見極めておくこと、つまり、できること、できないことを見極めることが重要になります。
たとえば「観光をトリガーにした関係人口づくりまでを、我々がお手伝し、その先は受け入れ側の地元が、がんばっていただく」など、それぞれの役割を明確にしていくことです。
我々の役割は、「地域と外部とのパイプ役」です。
すなわち、現地のニーズに合わせて、「外部のヒトとカネと情報」とを結びつける役割です。

「マーケットイン」思考

居住・関係人口を増やすための取り組みは、本来、「わが地域には、このような魅力がある」と発信することでした。発信は重要ですし、だれもが認めるような魅力がある地域ならよいでしょう。
しかし衰退に悩む地域においては、他地域と比べた優遇策といっても限度があります。
移住や、国内留学の成功事例には、都心部の子育て世代や元気なシニア、また地方創生に関心のある企業ニーズを、結果的にうまく、すくい取っている取り組みが数多く見られます。「あなた方のニーズに対応した受け皿が用意できます」という視点で、その地域を見つめなおせば、無理な財政支出とは別の地方創生を見つけることができるかもしれません。
「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へと発想を転換させることが重要です。

まちづくりの現場から「街の情報発信が不足している」という問題提起を、よく耳にしますが、企業の年間の宣伝広告費は、トヨタで約4700億円、サントリー約3900億円、ソニー約3600億円(2020年度)です。そのような膨大な資金を投じた情報洪水のなかで、個人のこだわりや手法を羅列して、細々と発信するだけでは、効果が現れないのは当然です。
いかにして外部の人々に「自分ごと」だと判断してもらえる情報を発信するかが重要です。
いくら「このまちは住みやすいですよ。自然豊かな所へ来ませんか?」と地方が一方的に言っても、都市生活者に「自分ごと」として捉えてもらえなければ、スルーされてしまうだけです。

定住主義からの転換

東京への一極集中の是正のために掲げられた地方創生ですが、その効果は見られず、2023年に東京都は6.8万人の転入超過となり、コロナ前の水準に戻りつつあります。
その内訳を見ると、10代後半や20代の若者が多くを占め、しかも女性の転入超過数が男性を上回っています。名古屋や大阪、札幌、福岡などの大都市からの転入も目立ってきています。
これまでの地方創生は、地方に定住できる環境を整えるため、仕事をつくり、子育て支援を図って、移住を促進してきました。
しかし、この定住主義には、もはや限界があるのではないでしょうか?
その根本要因は「年収格差」にあるといえます。
東京の平均年収は455万円で、約400万円の大阪、愛知を大きく引き離しています。
さらに地方では年収差が100万円近く広がる地域もあります(doda平均年収ランキング2023年)。
また、東京では「大きく稼ぐこと」も可能です。申告所得が1億円以上の高額納税者数は全国で2万9249人(2022年)ですが、東京都在住者が全体の40%、東京圏では58%を占めています。
住居費など生活費は高いのですが、東京には「経済活動の場」としての夢があるのです。都会にあこがれる若年層の地方定住を主眼にすることは、無理があるといえるでしょう。

「関係人口」で考える

前述のとおり、若年層の定住人口を増やすことを主眼にすることは賢明とはいえません。
施策の軸足は定住人口から「関係人口」におくべきだと考えます。総務省が示す若者中心の関係人口だけでなく、対象を幅広く想定することが重要です。
関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、「地域や地域の人々と多様に関わる人たち(人口)」を指します。
これは2016年に雑誌『ソトコト』編集長の指出一正氏が著わした『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ社)、2017年の田中輝美氏の著書『関係人口をつくる』(木楽舎)などで提唱された、まったく新しい概念です。
2017年には総務省の「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」(座長 小田切徳美 明治大学農学部教授)でも取り上げられました。
「人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面している地方圏で、若者を中心に変化を生み出す人材が地域に入り始めており、関係人口と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待される」と報告され、地方創生を実現するコンセプトとして脚光を浴びるようになりました。
2014年の地方創生法施行以降、各自治体では定住人口の増加、維持が困難である一方で、交流人口が拡大しても地域の維持は難しいことが認識されるようになりました。
このような状況を打開するために提案されたコンセプトが「関係人口」です。 
総務省では2018年度に「関係人口創出事業」を、2019年度及び2020年度に「関係人口創出・拡大事業」を実施し、国民が関係人口として地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供する地方公共団体を支援してきました。また国土交通省は、「2020年に三大都市圏の18歳以上居住人口(約4678万人)のうち2割以上(約980万人)が他の地域の関係人口になっている」との推計を公表しています。
まさに成熟ニッポンにおける地方創生の切り札として、国を挙げて〝観光以上 定住未満〟の「関係人口」の創出を後押ししている状況といえます。

東京と連携する

東京との収入格差を踏まえると、段階を踏んだ移行が必要と思われます。
まずは、都市での生活や人生のなかに地方での活動を組み入れ、東京の生活と連携・補完するサブシステムを整備することで、都市と地方をつなぐことをスタートさせてはどうでしょう。
テレワークなどを活用し、都市にいながら特色ある地方の事業者を手伝う、本業にもプラスになる「副業」スタンスや、将来のために未知の体験を通し実践力や人間力を高めようという「投資(=教育)」スタンスも有効だと考えます。
地方創生の活路は、東京と連携したサブシステムから生まれる関係人口の創出にあります。
さらに地方創生活動の継続には、本人の「地方への想い」だけでなく、会社、学校、自治体、親族など本人の属する社会からも背中を押されるしくみ化が、重要だと考えます。

ライトな関係人口

移住における心配ごとのトップが、「仕事があるのか」になっています。
コロナ禍を経てテレワークが浸透し、転職せずに移住できるケースも増えてきていますが、まだまだ少数にとどまっている状況です。移住先で収入が確保できるのか?
あるいは地域に溶け込めるのか? など、心配事が多くて、本格移住にはなかなか踏み切れません。
まちあすでは、移住に向けた段階的なアプローチとして、移住体験一時留学などのプログラムを提案していきたいと考えています。

(1)ライトな一次産業
近年の農業従事者は、農作物をつくるだけでなく、それを加工し販売する6次産業化を図る事例が増えてきました。たとえば農家レストランや観光農場的なアプローチです。
水耕栽培や分業式など、幅広い人たちが関われるようにした農業事業者も現れています。水産業においても「日本さかな専門学校」のように、漁業だけなく、マリンレジャーを含む幅広い分野を学べる学校も生まれています。
このように「一次産業=難しくて、キツイ」イメージを払拭するライトな一次産業の事例があると、関係人口を増やしやすいのではないでしょうか。

(2)サブ生計
生活費のすべてを移住先の仕事で賄おうとすると、選択の幅が狭まってしまいます。
たとえば、シニア世代のように年金収入での補填があれば、自分たちで作物をつくることで生活費を抑え、移住することも可能になります。
また「半農・半テレワーク」という生活も夢ではなくなりつつあります。
ソーラーシェアリングという、農地併設型のソーラーシステムも普及し始めています。
いずれも、地方での一次産業で収入の一部を補うサブ生計のしくみといえます。

(3)移住体験
移住して生涯を田舎で過ごすというのが高いハードルになるようなら、「ワープステイ」のような、都市部の自宅を定期借家方式で賃貸し、一時的に自然豊かな地方に移住して、最終的には都市部の自宅に戻って晩年を過ごす、というようなライフスタイルも可能です。
また企業研修の一環としての移住体験や地方留学も有効です。期間限定であれば、移住側、受け入れ側ともにハードルが下がるのではないでしょうか? 
移住の魅力が実感できれば、そのとき「本格移住」に駒を進めればいいのだと考えます。
重要なことは、「若者定住」一辺倒の支援制度の幅を、いかに拡張できるかということではないでしょうか?

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