地方創生と海藻ビジネス② (磯焼け問題)

 海藻ビジネスを考えるときに「磯焼け問題」は避けて通れません。海藻が形成する藻場は、様々な海洋生物の棲み処、産卵場所、外敵から身を守るシェルターにもなるので、沿岸漁業にも大きな影響を及ぼしています。

 磯焼け問題を知りたい方には、現在公開中のドキュメンタリー映画「ここにいる、生きている。消えゆく海藻の森に導かれて」(⻑谷川友美監督)を観ることをお勧めします。映画冒頭の映像「海藻の森」はまるでジャングルのようで、それだけでも一見の価値があります。ただ、そのような豊かな海藻の森が日本の周辺でどんどん消滅しているのです。

 「ウニが海藻を食べ尽くしている」というニュースが流れます。でも憧れのウニ丼のウニがなぜ悪者になってしまったのでしょうか?新種のウニが出てきたわけではありません。もともとウニは海藻を食べます。北海道では「うちのウニは高級な昆布を食べているから美味いよ」とセールスしていました。ただ、水温が一定以下になるとウニの食欲が低下するため、同じ海域で昆布漁とウニ漁が両立していました。
 しかし、1990年代以降、海水温が上昇してウニが海藻を食べ続けるようになったためバランスが崩れ、九州、西日本の暖流域沿岸から磯焼けが進みつつあるのです。江戸時代から真昆布の産地として有名な北海道函館ですら、天然昆布は母藻として保護し、養殖昆布が中心となっています。

 「ウニが問題なら、どんどんウニを獲って売れば問題解決じゃないの?」と考えてしまいます。しかし、磯焼けした海のウニは、餌となる海藻がなく飢えて痩せているため全く商品価値がありません。また、海藻を食べる魚(=食害魚)も磯焼けの原因となります。もともと南の海にいた魚が、徐々に日本列島を北上してきています。

 海水温上昇は地球規模の気候変動に起因していると考えられ、局地的な活動で止められるものではありません。しかし、放置していたら日本料理店の厨房から天然昆布が消えてしまいます。また、人間としては養殖昆布さえあればいいという話でもないでしょう。

 水産関係者の努力により漁場によっては好転の兆しがないわけではありませんが、ボランティア活動や政府からの補助金頼みでは活動の持続性に限りがあります。そこで、食害魚の調理法を考え出して商流に載せたり、前回コラムで紹介した藻場形成に係るJ―ブルーカーボンクレジットを導入したり、磯焼け対策に要する資金を経済メカニズムで生み出す取組が始まっているのです。
                                              (くまさん)
1/19 上映後のトーク会 ⻑谷川監督 左 とゲストの伊藤二朗氏
1/19 上映後のトーク会 ⻑谷川監督 左 とゲストの伊藤二朗氏