これがまちあすの考える地方創生(4)

環境まちづくり支援機構(まちあす)の考える〝持続可能なまちづくり〟とは、どんなものなのか?
地域の魅力や活力を高めるためになにができるのか?
まちあすの思い描く地方創生の未来図を、ご説明します。

4.まちあすの方針

脱・フロントランナー思考

前章で「まちづくり」と「地方創生」の共通点についてお話しました。
まちづくりは全国でさまざまな視点で実践され、成功事例が報告されています。そうなると他の地域も、その成功事例を学習・研究し、成功した地域を視察し、自分のまちにも転用しようと試みますが、うまくいかないケースが多いようです。
なぜか? それは、成功事例というものには「フロントランナー」的な特殊な事例が多いからではないでしょうか? 
通常、地方のまちには、スーパーマンのような自治体職員も、社会貢献に熱心な住民もいないのです。過疎地域で展開される地方創生は、さらに難易度が高くなります。
今、多くの地域には、フロントランナーの成功事例でなく、スーパーマンが存在しないことを前提にした、ハードルの低い施策が求められているのです。

曖昧な6割を巻き込む工夫

現・渋谷区長の長谷部 健さんは、若い頃ゴミ拾いのボランティア活動を始めました。表参道の両側の歩道を週に一度ゴミ拾いして回る活動で、2003年に「NPO法人グリーンバード」を設立し、この活動は今では、海外も含め多くの都市や地域に広がっています。
この活動にあたって、長谷部さんが気をつけたことが、3つあると聞きました。

(1)目標には「ゴミ拾い」という終わりの見えない行為ではなく、路上のゴミの大部分を占めるタバコの吸い殻の「ポイ捨て防止」というゴールを設定したこと。【ゴール・シフト】

(2)週に一度の設定はあるけれど、雨が降れば休む。あえて拾ったゴミの量ではなく、表参道の歩道を歩きながら遭遇したエピソードについての情報発信をする。【ゆるい運営】

(3)以上のような活動スタンスを踏まえて参加者を募るときには、「ゴミ拾いに参加しませんか?」と言わず、「週に一度〝朝会〟をしよう」とアピールする。【構えないキャッチフレーズ】


意識の高い2割と、絶対に関わらない2割を除いた〝曖昧な6割を巻き込む〟のが重要だということです。曖昧な6割は、「いいことなのはわかっているし、おもしろければやってもよい」というスタンスの人たちで、この人たちを巻き込むには間口を広くして、気軽にアクセスできることが重要です。
「地方創生」においても、一部の人が、がんばる「フロントランナー思考」や、こうすべきといった「締めつけ思考」では、継続性と展開性に欠けます。
幅広い人たちに関わってもらうためには、「地方」という「距離」そのものが、すでにひとつのハードルになっているのですから。

ワン・アクションのしくみ

地方創生に「曖昧な6割の人たち」が気軽に関わるために、ワン・アクションでアクセスできるしくみづくりが重要となります。
地方では「活性化させたい」、都市では「支援したい」と、お互いに想いがあっても、「What(なにをすればいいのか?)」と「How(どのようにすればいいのか?)」が、実現への高いハードルとなります。
やってみたい、と、やるとの間には、さまざまな調整や協議が必要ですが、課題を明確にし、解決策を探り、丁寧に調整したうえで、このように「やってみませんか?」と投げかけていくことが、実施へのポイントとなります。

私たちは、前述の北海道松前町のような地方と都市の2拠点体制を活かして、両者の「What」と「How」を克服するしくみをつくることで、「地方」と「都市」との橋渡しをしたいと考えます。
東急不動産のブランド力や信用力による下支えにより、受け入れ先である地方側と、申し入れ元となる都市側の、円滑な決裁をサポートできるのではないかと考えます。

2段階での地方創生

地方創生の推進主体である地方自治体が、予算も人員も減らされ、現状の仕事だけで手一杯であることは、前述しました。
さらに人口減少社会下では、すぐに成功が見通せない「地方創生プロジェクト」に対して、住民の理解と協力が得られ難いことも事実です。
そんな状況のなかに「よそ者」であるまちあすが関わっていくのですから、まず最初に「小さな成功による信頼構築」が大事です。
まずは自治体にも住民にも、極力負担をかけず、最小限の協力だけで得られる「小さな成功実績」の積み重ねが必要なのです。
第1ステップでの「成功実績」をもとに、自治体や住民に「希望」と「期待」とを持ってもらい、本格的な地方創生活動となる第2ステップに駒を進める。
時間は要しますが、地方創生活動ではこんなツーステップが重要なのです。
第1ステップとして、まずは、極力、自治体や住民に負担をかけずに遂行しなくてはなりません。さらに一過性のイベントでの集客ではなく、収益性と継続性のあるものが求められます。
そのためには、まず活動のベースとなる「収入の裏づけ」が鍵となります。

企業が特定の自治体に寄付することによって税額控除を受けられる、「企業版ふるさと納税」制度の活用が、手段のひとつとして考えられます。
手続きが簡単で、自治体の負担も軽く、住民の信頼が構築できる「わかりやすい実績」になるのではないでしょうか。
地方創生プロジェクトの推進に、「企業版ふるさと納税」は非常に有効な方策にもかかわらず、まだ十分浸透しているわけではありません。
まちあすでは、企業版ふるさと納税を活用し、地方創生を支援する第1ステップとして仕組み化していくことを提案したいと考えています。

本格活動

第1ステップでの実績により、自治体や住民からの信頼と期待を得たうえで、第2ステップとして、本格的な地方創生活動を始動させていきます。
地方を活性化するには「地方に関わる人を増やす」必要があります。
具体的には、従来の「若者定住人口」ではなく、「関係人口」の増加を目指します。
 地方創生に関心を持つ人たちだけでなく、都会の元気なシニアや、都市部での教育・子育てに疑問を抱えるファミリー、さらには社員の意識改革と意欲向上方策に考えを巡らせている企業など、都市側のニーズに対応した「ライトな関係人口」を増やしていくことが大切です。
たとえば「国内版ワーキング・ホリデー」の体験プログラムです。
「ワーキング・ホリデー」は、海外で働きながら海外旅行できる制度ですが、「国内版ワーキング・ホリデー」は、「ライトな関係人口」を促す新しい方策として、活用できそうです。
すでに総務省では、「ふるさとワーキング・ホリデー」と銘打って、助成事業などを推進していますが、私たちは、さらにもう一歩利用しやすくした「体験プログラム」を提案したいと思います。
「国内版ワーキング・ホリデーの体験プログラム」が、地方への移住をも検討する都市の人たちと、都会からの移住者を受け入れる地方の人たち双方の「心の重し」を軽くしてくれます。
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