まちづくり勉強会報告

持続可能なまちづくりのために、地方と都市の新しい連携を模索して
立ち上げられた私たち「環境まちづくり支援機構」(通称・まちあす)。
まず、地方と都市でまちづくりに奔走しているエキスパートを招いて勉強会を開くことから動き始めました。
4回の勉強会で私たちに示された未来への道標を、順次、ここで共有いたします。
【第1回】小野裕之さん
まちづくりプロデューサー
1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部卒。 ベンチャー企業を経て2012年、ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン『greenz.jp』を運営するNPO法人グリーンズを共同創業。20年春には株式会社散歩社を創業し『BONUS TRACK』を下北線路街に開業。現在は、世田谷区にある旧・池尻中学校(旧・世田谷ものづくり学校)を創業支援型複合施設にリニューアルすべく奔走中。

店が町をつくり 店が地方と都市をつなぐ①

1. 私のしてきたまちづくり

株式会社散歩社創業者兼プロデューサーの小野裕之と申します。
弊社は2020年4月から、東京都世田谷区の下北沢で『BONUS TRACK』という商業施設を運営しています。
1階が店舗、2階が住居スタイルの5坪規模のテナントを、小田急電鉄と一緒に作り、それを弊社がマスターリース(一括借り上げ)し、テナントさんにお貸しする事業です。小田急電鉄の線路跡地を利用したまちづくりの一環で、全部で15区画ぐらいあります。

今日は、この事業をはじめ、私が手掛けたり関わったりしているプロジェクトと、友人の会社が関わっているプロジェクトを半々の割合でお話しします。ミクロな事例で実績が出始めている地域をいくつかピックアップしました。
概して、地方の町は担い手不足で、すべての問題が結局つまるところ「それ、誰がやるの?」という問題に陥りがちです。たとえ小規模でもチームを作り、自走し、さまざまなマーケティング活動や移住促進、税金の効率的活用などが進まないといけません。イメージ戦略でドーンと、みたいな、前時代的方法は今では通用しません。地方の新しい魅力の発信やマーケティングが試されています。そういった実験ができる環境が必要じゃないかと、個人的にも思っています。その事例をいくつかお話します。

2-1. 日本橋から始まった私のまちづくり

5年ぐらい前まで、私の本業は『greenz.jp』というWebマガジンの運営でした。
Webマガジン『greenz.jp』
Webマガジン『greenz.jp』
ローカルニュースは、このWebマガジンの大切なテーマの一つで、ここ5~10年は新しい仕事づくりに関する課題がとても多いです。それを解決し、地域をよりよくするためのソーシャルデザイン記事を、ライターさんに、たくさん書いてもらっています。地方創生を扱う雑誌といえば『TURNS』や『ソトコト』などが有名ですが、Webマガジンだと私が手がけていた『greenz.jp』が日本最多の読者を抱えています。玄関の読者が現在20~30万人です。
そんなサイト運営で地方に関する知識を深め、現地と交流しながら数多の課題事例を追究することが、20代のころの私の仕事の中心でした。私は今年で40歳になりますが、35歳ごろまで、この仕事を続けました。
『greenz.jp』のWeb記事をまとめた本『ソーシャルデザイン』も2012年に出ていて「Amazon」などのネット書店でお求めいただけます。ご興味のある方は、ぜひどうぞ。

→ 『ソーシャルデザイン
→ 『日本をソーシャルデザインする
左『ソーシャルデザイン』・右『日本をソーシャルデザインする』
左『ソーシャルデザイン』・右『日本をソーシャルデザインする』
2006年7月の立ち上げから、早いもので18年目に突入。『greenz.jp』は、かなり老舗になりました。それで自分自身も実践者にならなければと考えるようになり、ここ5年ぐらいは、店を運営したり、冒頭で触れた『BONUS TRACK』のように「商店街をマスターリースし、テナント貸しする」といったリアルなビジネスが増えてきております。

そのきっかけは2017年。首都高速道路が30年後に地下に潜るのを見据えて、日本橋のまちづくりに約1兆円の投資をすることを発表している三井不動産から「東京の日本橋、さらに小伝馬町や馬喰町の駅周辺に、新しい店を増やしていきたい」と、ご相談を受けたことです。
『コレド日本橋』のような新しい大型商業施設もありますが、大規模な再開発は難しい。そもそも、この辺りは創業300~400年級の伝統的な企業がたくさん立ち並ぶエリア。江戸初期から続く和紙専門店『小津和紙』さんが一番古く、創業400年ぐらい。かつては神田駅前の土地もほとんど持っていたような大地主さんです。驚いたことに、和紙の原料になるコウゾが、400年前の創業当時は、その一帯に生えていたらしいです。

老舗の人たちと新店舗の人たちが協力し合い、新たな取り組みができないか? 大きな新しいビルをドーンと作るより、古いビルを活用できないか? それ以来、そう考えて小伝馬町、馬喰町、人形町辺りで、まちの未来を考えながら、いろんなプロジェクトを仕掛けています。

2-2. 小伝馬町と秋田県を結ぶ おにぎり店

たとえば日本橋小伝馬町に建つ、こちらの4階建てのペンシルビル。
7年前に「この狭小ビルで何かおもしろいことをやれないか」と三井不動産から相談を受けました。
このときは『greenz.jp』を通じて知り合った秋田の米農家さんたちと一緒に、おにぎり屋さんをやることにしました。ビルを丸ごと借り上げ、改装してオープンしました。
秋田県北部を走るローカル線・内陸縦貫鉄道の最北駅、鷹巣(たかのす)や、マタギの里の阿仁合(あにあい)周辺は、人口減少が一番激しい場所でもあります。そこで暮らす武田昌大さんをはじめとする若手の就農者、兼業者、新規で農業系ベンチャーを起こす方たちと一緒に秋田フードを盛り上げていこうとアイデアを出し合い、2017年、日本橋小伝馬町に『おむすびスタンドANDON』が誕生しました。
左『おむすびスタンドANDON』・右『秋田の産直米を使ったおむすび』
左『おむすびスタンドANDON』・右『秋田の産直米を使ったおむすび』
日本橋小伝馬町は、基本的にオフィス街です。飲食街ではないので、夜はけっこう閑散としています。なので「地域を灯す」意味も込めて「ANDON=行灯」と命名しました。昼はおむすび屋さん、夜は秋田の地酒が飲める店です。
この3年後の2020年には、冒頭で触れた下北沢の『BONUS TRACK』で、業態を変えた『お粥とお酒ANDONシモキタ』を開店させました。
『お粥とお酒ANDONシモキタ』
『お粥とお酒ANDONシモキタ』
『おむすびスタンドANDON』の昼(左)と夜(右)の外観
『おむすびスタンドANDON』の昼(左)と夜(右)の外観
『おむすびスタンドANDON』の左側は昼の外観、右側は夜。ビル全体を光らせたりして、温もりを感じる雰囲気を醸し出しています。内装などに秋田杉を使い、ファサードは炭焼きしてあります。オープン当初は、ビル全体が飲食店で、イートインと宴会スペースといった感じでしたが、コロナ禍による自粛規制もあり、何度か宴会スペースの見直しを図りました。2階へインドの炊き込みご飯ビリヤニの専門店として入ってもらったり、国産ワインの小売店に3階に入ってもらったり……。

また、東京都中央区では、堀留公園という地域の児童公園を地域活性の目的で、町会や区の協力により商業利用させていただいて、青空マーケット『堀留公園マルシェ』も開催しています。

2-3.秋田県側にも展開するまちづくり

秋田県でも、米農家のトラ男のみなさんはまちづくりを手がけています(現在は経営形態が変化)。
秋田県中央部の五城目町にある築150年の古民家を会員制シェア別荘として、友人の会社と共同運営しています。
秋田県五城目町にある古民家の会員制シェア別荘
秋田県五城目町にある古民家の会員制シェア別荘
ここを利用するには、まず会員登録して、月々3000円ぐらいの会費をお支払いいただきます。宿泊するときは、1泊単位で追加料金をお支払いいただくかたちです。時期にもよりますが、会員数は当時最大約2000人いたようです。オンラインのコミュニティでの交流がきっかけで友だちになり、一緒に訪問される方もいらっしゃいます。会員の多くは東京など都心部の方で「今年は稲刈り行ける」などと楽しみにしていらっしゃる。
また、秋田県庁と組んで、秋田で創業したい方に2年間で10組に総計3,000万円程度の創業補助金を渡す制度の審査や伴走型支援、さらに追加投資が必要であればハンズオン支援するような枠組みも、県庁と知事の肝入りでやらせていただいています。今年5年目で、毎年だいたい100組ぐらい応募が来ます。