店が町をつくり 店が地方と都市をつなぐ④

4-3. 宮崎県都農町では、ふるさと納税を活用したホステル

3つ目は宮崎県都農町(つのちょう)のまちづくり会社『イツノマ』。
都農町は宮崎空港から都濃ICまで高速利用で約60分という場所です。毎年100億円超えのふるさと納税の収入があり、まちづくりで大成功しています。この傾向は6~7年続いていて、ふるさと納税を始めて約10年で450億ぐらいの税収がありました。ふるさと納税の税収が全国ランキング1位の都城市は約200億。宮崎市も約80億ぐらいあります。宮崎県には焼酎や肉など、単価が高いふるさと納税商品が複数あり、希少なワイナリーもあって、今や宮崎県は〝ふるさと納税王国〟です。
なので、たとえば子供が3人いる家族が都城市に移住すると最大500万円もらえる。それほど宮崎県には財政の潤っている町が多いので、近隣の市町村も追いつけ追い越せ状態です。
この写真は、そんな町のベンチャー企業『イツノマ』が、地元工務店と始めたホステル。トレーラーハウスもホステルの、ひと部屋です。田園風景を見ながら、テントサウナで水風呂にも入れます。社長の中川敬文さんは敏腕経営者で、古い建物をリノベーションして新しい価値を作る『都市デザインシステム』の初期メンバーの一人でした。リーマンショックで、この会社は民事再生となり、数年後小田急の『UDS』として小田急の子会社になりましたが、社員規模を200人から500人へと拡大させました。

中川さんは昭和42年3月生まれ。今56歳で、『UDS』時代からふるさと納税の使い道のコンサル相談を受けていたようです。「青写真は描けるけれど、誰がやるんだ」となり、「じゃあ、僕が移住してやります」と都市型の大会社のマネジメントを辞めて、3年ほど前に社員数人の『イツノマ』を創業されました。ふるさと納税で創業する人を増やしたいので、営業許可取得済みのシェア店舗やカフェを1日単位で借りたい人を募ったり、ふるさと納税を発信して稼ごうとか、働く人の寄合所のようなコワーキングスペースも運営されています。

ここの運営に、J3を目指すサッカーチームを生かせないか、とか、画策中です。
宮崎県はサッカーチームを起点にしたまちづくりも盛んで『地域おこし協力隊』の枠組みを使って選手のギャラを払っている自治体もあるほど。新富町は『地域おこし協力隊』の予算でサッカー選手を30人ぐらい育成しています。スポーツ合宿も盛んで、スポーツ施設が県のお金で作られていて、稼働率を上げるためでも、協力隊の枠組みを使ってスポーツ選手を都会から連れてきます。練習と地域活性の仕事を半々の割合でしている選手もいます。

「ゼロカーボンシティ宣言」を作って町長に発表する中学もあり、『イツノマ』は中学校でその授業をしています。時間はかかるけど教育からやっていこう、と。授業の他に「まちづくり部」を新設し、まちづくりや地域を好きになってもらう部活動もしています。

2021年に廃校になった都農高校はとても広い場所で、住民主体で活用方法を計画しています。全面的に改装して何か開業するのは難しいので、一部開業の形で時間をかけて整備していく予定です。財源はふるさと納税なので、町の方針がガラッと変わらない限り、町外への発信拠点になるのではないかと思っています。

4-4. 北海道川上町は地域おこし複合施設で協力隊誘致

最後の事例は、北海道の大雪山の麓、上川郡上川町の『Earth Friends Camp』(2024年6月1日より『EFC』に社名変更)が手掛けた泊まれる複合施設。
僕はこの半年ぐらい、現地に通ってミーティングを重ねました。
元薬局の空きビルをリノベーションし、複合施設『ANSHINDO』に
元薬局の空きビルをリノベーションし、複合施設『ANSHINDO』に
写真の3階建てのビルを、移住してきた30代前半ぐらいの人ふたりが、約500万円で購入されまして、宿泊施設、飲食店、そしてワーケーション拠点として使える、地域おこし複合施設『ANSHINDO(アンシンドウ)』にしたいと仰る。中小企業庁の補助金が取れたら専門家伴走が必要なので、取得を前提に伴走者を担ってほしいと依頼され、応募したら通ったのです。

上川町は地域おこし協力隊『カミカワーク』が元気で、求人が成功している町としても有名です。企業誘致や企業包括連携も、例えばニュースピックス、日産自動車、クラブツーリズムなど、いろんな企業と連携協定を結んで、社員が派遣されるとチャレンジ内容を詰めていきます。

購入者のひとりは北海道の層雲峡温泉郷の『層雲峡ホステル』という簡易宿泊を事業承継していて、もうひとりは札幌でコーヒー店をされていた夫婦が移住して、カフェやコーヒー豆の焙煎と卸しをしておられます。1階に飲食店のテナントを入れたいというのでテナントリーシングをがんばったり、2階は会員宿泊のゲストハウスとのことで内装を入れたり。3階はコワーキングスペースかシェアオフィスが希望で、自ら内装工事を始められました。

『カミカワーク』の活躍で上川町は移住が進んで、移住促進住宅は常に満床。東京事務所の方が首都圏で営業をがんばられて、企業包括連携も10社20社と順調に増えています。役場と企業の関係ではなく、協力隊やその卒業生たちが地域側に入って連携してくれる。役場の協力が入り続けるにはリソース的にも予算的にも無理があります。いきなり地元の事業者ではなく、協力隊とタッグを組んで東京の企業と実績を作ろうとしているので、僕も間に入って何かできたらいいなと思っています。

層雲峡は歴史のある温泉街で大雪山ホテルや層雲閣がリニューアルされ、アジア系観光客のインバウンドが活況を呈しているので、中国、韓国、台湾の方たちへの、この地域の情報発信もしています。2016年には酒造会社『上川大雪酒造』ができました。既存の免許を買い取る形で、三重県にあった酒蔵会社を登記変更し直して設立。拠点が上川町、十勝、函館と3カ所ある醸造所です。試飲しましたが、とても美味しい。北海道で日本酒って、まだイメージがないと思うので、草分け的な存在となって引っ張ってほしいです。
このような地域に散らばっているコンテツが『Earth Friends Camp』に集まり、市街地と空港のある旭川と、層雲峡一帯をつなぐ拠点になることを目指しています。

5. 各地の事例に共通するもの

最後に、4事例の共通項をまとめます。みっつあると思います。
ひとつ目は、ストーリー
どんな町として再生していくのか、リブランディングが大事だなと思います。
ふたつ目は、中心となる起業家的人材
これも不可欠です。誰にリスク取ってもらうかは決めないと前に進めないと思います。
みっつ目は、ファンコミュニティ
成功したら乗っかりたいとか、お金払ってくれるお客さんを呼び込む前に支えてくれる支援者が必要です。そのフェーズを、この4事例で見てきました。
土台作りを地域の人だけじゃなく都市部の人も巻き込み、参加者の自由も残しながら進めるということが、大事だと思います。

〝いっちょかみ〟したい人がたくさんいるときに難しいのは、ひとつのストーリーになりにくいこと。人によって仕事や暮らし方、価値観が違います。社会の希薄化、多様化の問題だと思いますが、散らばっているコンテンツを新しいストーリーでつなぎ直すということが重要です。

男鹿市の「日本酒特区計画」も、県内にある資源を生かして新たなストーリーを編集しました。男鹿市は秋田県民でさえ「何のために行くの?」というような、寒風吹きすさぶ町。でもそこに可能性があり、岡住社長にかけてみようと思える土壌がある。この2年ぐらい『稲とアガベ醸造所』を中心に発信していますが、ピンチをチャンスに変える大事な要素ですね。

都市的成功やQOL(生活の質)の追求が今、限界にきています。
物価が高いし給料も上がらない。仕事で都会に住まざるを得なかった理由がなくなったと実感する世の中になった。おもしろい状況は地方でも生み出せる。ただし地方型の新しいストーリーを体現してリスクを取る人がいる構造が必要です。

起業的人材も「意識して探そう、ぜひうちの町でやりましょう」と、その人が借金して投資家を見つけて自分でリスクを取る状態を作って、一緒にやる事が大事。委託だと委託金なくなったら、いなくなったり関わらなくなったりしてしまいます。地域の人もやってくる起業家的人材も(良い意味で真剣になる)「逃れられない構造」を作らないと、長く続かないと思います。ただマイルストーン(目標)の設定は「10年ぐらいでひとつ大きな結果を出しましょう」が健全かと思います。骨を埋めるみたいな感覚は若い人には背負いきれない。

コロナ禍によって、働く場所も住む場所も自由に選べるようになり、かつての〝会社コミュニティ〟がなくなってしまった喪失感に、今、「会社以外での友だち作りはどうするんだ!」という、おとなが大量発生している気がします。個人も法人も『企業版ふるさと納税地』みたいなものを探している感じかと。参加的とは、消費的でないというか、仕上がったらお金を払うから、ちょうだいではなく、価値やチーム作りに楽しんで参加する人が、まず必要ということ。

インディーズバンドをメジャーに押し上げようと参加的に関与し続けるファンコミュニティを作れたら、そこで何か売り物や楽しみ方が設計できたら、お金を落としてください、人が来ます………みたいな順番と思います。

この4事例を見てみて僕は「起業家的な人材を中心に新しいストーリーを作り、最初のファンコミュニティをどう獲得するか」が、一番重要じゃないかと思っています。