店が町をつくり 店が地方と都市をつなぐ その②

3-1. 下北沢で試みている私のまちづくり

では、ここからは、冒頭で申し上げた下北沢の『BONUS TRACK』という商店街運営についてお話します。
左下から右上に延びる帯状の空間は、小田急線の線路跡地です。小田急電鉄が「世田谷代田駅-下北沢駅-東北沢駅」の3駅間の線路を地下化したので、幅約40m、距離2km弱の空き地が出来ました。その空き地の、赤丸で囲ったところを 20年間借り上げて、テナントにお貸ししているのです。15区画ほどになります。
個性豊かな飲食店や物販店が集まる『BONUS TRACK』
個性豊かな飲食店や物販店が集まる『BONUS TRACK』
公園のように使っていただけるオープンな場所なので、世田谷区の公園だと思って来る人もたくさんいらっしゃいます。コロナ禍も、1年目の夏からイベントをやっていました。お店を使わない人は来ちゃダメとかではなく、金網やバリケードで囲ったりもせず、自由に入れる空間にしています。
店舗の営業時間は、11時から21時ぐらいまでが多いですが、広場に関しては開閉時間もありません。最近は、ふるさと納税サイトに掲載している事業者を集めたマーケットもやりました。東京の消費者と顔が見える関係になろう、みたいな趣旨です。

ここに出店してもらった業態は本当に多種多様で、書店があったり、スイーツショップ、ワイン店、カレー店、八百屋さん、珍しいところでは発酵食品専門店、ビーガン専門の中華料理屋、不動産屋、下北沢っぽいレコード店もあります。「これからの下北沢にあったらいいな」と僕らが思うお店は積極的に誘致させていただいてます。
でも、下北沢の街中に、すでにある路面店を引っこ抜いてここに持ってくる、みたいなことはせず、必ず街中の拠点とは別にここでも展開してもらう、という風にお願いしています。
僕自身も『お粥とお酒ANDONシモキタ』をテナントとして営業しています。日本橋小伝馬町の『おむすびスタンドANDON』の2号店です。あと、共用部でコワーキングスペースやシェアキッチンスペースなどを運営しております。

下北沢駅前の賃料がこの10年間で3倍ぐらい跳ね上がり、2010年ごろは坪2~3万円だったのが、今では坪6~7万円、個人事業主だと払えない状況です。チェーン店の『富士そば』さんですら撤退する事態になっています。とても流動性が高い駅前になっているのです。でも「初めてお店で持つんだったら下北沢だよね」という雰囲気は残しておくのが良いだろうと、建物オーナーの小田急電鉄と一部世田谷区も絡めて理解し合って、『BONUS TRACK』は、個人オーナーに借りていただける坪2万円ぐらいの木造商店街を新たに作ることにしました。

さらに、どの店舗に対しても、収益以外のミッションを、必ず入店時の面談で伺うせいか、結果としてチェーン店とかが入るような開発ではなく、個人事業主の方に使っていただける商店街になっています。共用部のコワーキングにはコロナ禍でテレビ会議の需要が出てきたので、集中ブースを用意したり、シェアキッチン、イベントスペースがあったりします。
この写真、階段の下にスタンドと書いた台がありますが、ポップアップスタンドです。このような、1日単位で借りて使える場所も用意しています。

3-2. 人が店を作り 店がまちをつくる

私は、まちづくりの核になるのは、やはりお店。リアルな拠点だと思います。
結局のところ、その街で働いている人が街の価値を作っていく部分が大きいので、働く人たちが店を維持して成長していくようなストーリー人が店を作って、店が町を作るといった設計になっていかないといけません。そう考えて私は「人づくりは店作り、店作りはまちづくり」となる導線設計を常に意識しています。

これは2021年の『BONUS TRACK』のイベントカレンダーです。
『BONUS TRACK』のイベントカレンダー
『BONUS TRACK』のイベントカレンダー
ほぼ毎週イベントみたいな感じで、年間100本とか150本ぐらい中庭でやっています。八百屋さんのマルシェ、植栽のプロによるプランツコレクティブ、ブックマーケット、レコードマーケットなど。あと、テナントさん主催のマーケットもいろいろあります。
数え切れないくらいいろんなことをやっています。

でも自分たちだけによる運営ではなく、「お客さま」と「新しく出店されたい方」と「副業レベルでやっている方」、と、いろんな余白を作って運営した結果、コロナでも売り上げ自体は順調でした。この4年目が一番順調ですが、多くのメディアに取り上げていただいて、若者の街が原宿じゃなくて下北沢に移ったみたいな報道も多いです。原宿は今やインバウンド向けのコンテンツを増やしすぎて、「日本人の若者が寄り付けない町」になってきている感じもしますよね。特に裏原宿とか。インバウンドを意識しすぎると、新しいチャレンジやコンテンツが消費されるスピードに追いつかず、スカスカになる。「成功者しかチャレンジできない町」みたいに見える。
逆に下北沢はいろいろなフェーズのお店があります。 新しくお店を持ちたい人向けの学校もやっております。いろんな立場の人が多面的に支えることが大事だと実感しています。