2024.07.04
勉強会
店が町をつくり 店が地方と都市をつなぐ③
4-1. 秋田県男鹿市で駅舎を利用した酒蔵
ここまでが私が普段やりとりしている知人の事業だったり、私自身が主体となって地方と関わっているプロジェクトです。あと他の地域の事例を4つほどご紹介できればと思います。
1つ目は、秋田県男鹿市の酒蔵『稲とアガベ醸造所』。2012年10月、JR男鹿線の終着・男鹿駅の築90年の駅舎が古民家風にリニューアルされました。ところが、18年7月に駅舎が南側の商業施設近くに新築移転したため、21年9月に旧駅舎を借り受けて開店したお店です。
1つ目は、秋田県男鹿市の酒蔵『稲とアガベ醸造所』。2012年10月、JR男鹿線の終着・男鹿駅の築90年の駅舎が古民家風にリニューアルされました。ところが、18年7月に駅舎が南側の商業施設近くに新築移転したため、21年9月に旧駅舎を借り受けて開店したお店です。

秋田銀行と政策金融公庫から2億1000万円の融資が下りたと話題になりました。
創業支援金としては破格です。地銀や公庫の利率や元本の返済の据え置き期間が優遇され、返済期間も、都内だと10年が関の山ですが、秋田県だと25年と、たっぷり認めてもらえました。市も積極的に支援してくれています。大きな理由は、酒米の栽培から醸造まで一貫して行うからです。
しかし『稲とアガベ醸造所』には、醸造した酒類を国内で販売できる清酒製造免許の新規取得は認められていません。2021年4月から海外輸出用の清酒に限り、最低製造数量60kgの適応外で新設許可されるようになったばかりです。それまでは国内向けに「その他の醸造酒」の免許で、どぶろくや、日本酒と似た製法で造った酒にテキーラの原料〝アガベ〟から採れるシロップを入れた「クラフトサケ」という日本酒風の酒を醸造販売するだけに限られました。
今は「日本酒製造特区」を目指して、日本酒ベンチャーの聖地として地域を盛り上げようと動いています。『稲とアガベ醸造所』は、その中心となるベンチャーです。
社長の岡住修兵さんは秋田の『新政酒造』で修業を積んだり、農業生産法人で就農したり、20代から10年ほど秋田で働き、さらに東京・浅草のどぶろく店で販売も経験し、秋田に移住して創業した人です。福岡県出身で、今30代半ば。地域活性化や観光資源化、永住・移住促進などを視野に入れて、農業法人と醸造所を経営しています。
創業支援金としては破格です。地銀や公庫の利率や元本の返済の据え置き期間が優遇され、返済期間も、都内だと10年が関の山ですが、秋田県だと25年と、たっぷり認めてもらえました。市も積極的に支援してくれています。大きな理由は、酒米の栽培から醸造まで一貫して行うからです。
しかし『稲とアガベ醸造所』には、醸造した酒類を国内で販売できる清酒製造免許の新規取得は認められていません。2021年4月から海外輸出用の清酒に限り、最低製造数量60kgの適応外で新設許可されるようになったばかりです。それまでは国内向けに「その他の醸造酒」の免許で、どぶろくや、日本酒と似た製法で造った酒にテキーラの原料〝アガベ〟から採れるシロップを入れた「クラフトサケ」という日本酒風の酒を醸造販売するだけに限られました。
今は「日本酒製造特区」を目指して、日本酒ベンチャーの聖地として地域を盛り上げようと動いています。『稲とアガベ醸造所』は、その中心となるベンチャーです。
社長の岡住修兵さんは秋田の『新政酒造』で修業を積んだり、農業生産法人で就農したり、20代から10年ほど秋田で働き、さらに東京・浅草のどぶろく店で販売も経験し、秋田に移住して創業した人です。福岡県出身で、今30代半ば。地域活性化や観光資源化、永住・移住促進などを視野に入れて、農業法人と醸造所を経営しています。
4-1-2. 地域文化のコンテンツメーカーを目指す
ここには『土と風』というレストラン&カフェを併設しています。
レストランは夜の営業で、日本酒とのペアリングが堪能できる1人1万円ぐらいのコース料理の店です。道の反対側にある『道の駅おが なまはげの里オガーレ』のような1500円前後の定食が主力の店ではありません。ただし、昼間はカフェで、カレーやコーヒー、酒粕を利用したソフトクリームなどの軽食を出しています。酒販もしています。
昨年は、有名なラーメン店『一風堂』の創業者である河原成美さんと一緒に、ラーメン店『おがや』も始めました。
他に、食品工場&ショップ『SANABURI FACTORY』もあります。廃棄リスクのある農産物や酒造りの過程で出てくる酒粕を使った加工食品を製造販売しています。酒粕を利用したマヨネーズはイチ推しの人気商品です。今後は酒粕を蒸留したアルコールで粕取り焼酎も作りたい、と考えているようです。そこまで突き詰めるとなると、廃棄物が出ないような産業へと発展して行くのではないかと期待しています。
男鹿駅は、秋田駅から電車で1時間。数年前、ユネスコの世界文化遺産に、なまはげなどが登録されたので盛り上がるかと思いきや、普段は相変わらず人っ子ひとりいないような港町で、宿もない。地域文化を各地に発信するコンテンツメーカーが必要です。それに、宿泊施設やワーケーション拠点も作らないといけません。今は、酒蔵で飲んだ後、終電で秋田駅に戻らなきゃいけない。終電は22時半ぐらいなので、楽しめるといえば楽しめるのですが、もうちょっと滞在時間を増やせる仕組みを作ろうと言っています。
『稲とアガベ醸造所』の酒には多くのファンがいます。
ここで作った日本酒風のクラフトサケ『INE to AGAVE(稲とアガベ)』を東京で飲む人たちに、年に1~2回、男鹿に来ていただき、生産地のファンも増やそうと、複数の会社と自治体が協力して取り組んでいます。日本酒は味だけでなく、背景のストーリーにも価値がある。これをうまく使って聖地にしたいです。例えば『新政酒造』には有名な『新政』をはじめ、ワインの価格帯のフルーティーな味わいの酒が複数あります。そこで約5年間杜氏修業をした岡住さんが作った『INE to AGAVE(稲とアガベ)』を、背景にあるストーリーとともに、お客さんに楽しんでもらえるよう『新政』のマーケティングに似た手法で普及を図っています。
男鹿市も、レストラン、農業法人、駅を、この近くに移転し、駅前の改修もして、いろいろ手掛けてきました。小雨程度ならイベントができる大屋根のある広場も作っています。たった2~3年でここまでラインナップを揃え、全面的に支援してくれている地域は、とても珍しいです。
レストランは夜の営業で、日本酒とのペアリングが堪能できる1人1万円ぐらいのコース料理の店です。道の反対側にある『道の駅おが なまはげの里オガーレ』のような1500円前後の定食が主力の店ではありません。ただし、昼間はカフェで、カレーやコーヒー、酒粕を利用したソフトクリームなどの軽食を出しています。酒販もしています。
昨年は、有名なラーメン店『一風堂』の創業者である河原成美さんと一緒に、ラーメン店『おがや』も始めました。
他に、食品工場&ショップ『SANABURI FACTORY』もあります。廃棄リスクのある農産物や酒造りの過程で出てくる酒粕を使った加工食品を製造販売しています。酒粕を利用したマヨネーズはイチ推しの人気商品です。今後は酒粕を蒸留したアルコールで粕取り焼酎も作りたい、と考えているようです。そこまで突き詰めるとなると、廃棄物が出ないような産業へと発展して行くのではないかと期待しています。
男鹿駅は、秋田駅から電車で1時間。数年前、ユネスコの世界文化遺産に、なまはげなどが登録されたので盛り上がるかと思いきや、普段は相変わらず人っ子ひとりいないような港町で、宿もない。地域文化を各地に発信するコンテンツメーカーが必要です。それに、宿泊施設やワーケーション拠点も作らないといけません。今は、酒蔵で飲んだ後、終電で秋田駅に戻らなきゃいけない。終電は22時半ぐらいなので、楽しめるといえば楽しめるのですが、もうちょっと滞在時間を増やせる仕組みを作ろうと言っています。
『稲とアガベ醸造所』の酒には多くのファンがいます。
ここで作った日本酒風のクラフトサケ『INE to AGAVE(稲とアガベ)』を東京で飲む人たちに、年に1~2回、男鹿に来ていただき、生産地のファンも増やそうと、複数の会社と自治体が協力して取り組んでいます。日本酒は味だけでなく、背景のストーリーにも価値がある。これをうまく使って聖地にしたいです。例えば『新政酒造』には有名な『新政』をはじめ、ワインの価格帯のフルーティーな味わいの酒が複数あります。そこで約5年間杜氏修業をした岡住さんが作った『INE to AGAVE(稲とアガベ)』を、背景にあるストーリーとともに、お客さんに楽しんでもらえるよう『新政』のマーケティングに似た手法で普及を図っています。
男鹿市も、レストラン、農業法人、駅を、この近くに移転し、駅前の改修もして、いろいろ手掛けてきました。小雨程度ならイベントができる大屋根のある広場も作っています。たった2~3年でここまでラインナップを揃え、全面的に支援してくれている地域は、とても珍しいです。
4-2. 神奈川県三浦市では船具店を利用した図書室
2つめは、神奈川県三浦市三崎町にある『三崎港蔵書室 本と屯』。

2017年、出版社『アタシ社』が三浦半島南端の港町の元船具店を借り上げて開いた施設です。代表のミネシンゴ・三根かよこ夫婦が本棚に蔵書をずらっと並べたら近隣の人たちが興味を示して、無料で読める図書室と化しました。2階はなんと美容室。ミネさんは元美容師。転職してリクルートで『ホットペッパービューティー』の営業とかをされて、その頃のつながりも生かして全国の美容室をガイドする本を作ったり、地域ものの編集をしたりと、活躍された方です。
そういうわけで、『本と屯』は次第にタウン情報のハブとなり、交流の場となり、たとえば「最近、魚の専門学校ができたらしい」なんて話が入ってくる。2023年に開校した『日本さかな専門学校』がそれです。
三崎漁港は昔からマグロ漁で知られ、風情ある漁港や街並み、海釣りや遊覧船観光などで年中人の行き来は多い。でも一見開けて見えても、地域コミュニティは閉ざされた感じで、たとえば、ここでお店を開きたい人が借りられるような物件は1件も存在しないような地域です。ところが『本と屯』には地域の物件情報も入ってきて、不動産屋さん化してきた感じで。おもしろいことをやりたい方がいるなら、と貸主と話がまとまり、新店舗が増えているのです。
2階の美容室も同様です。お客さんの少なくない部分が都内や他地域からなのですが、マグロを食べに来るような客層ではなく、クリエイティブな仕事をしてる人たち。高速を走れば1時間か1時半ぐらいで来られるので、1~2か月に1回ぐらいのスパンで通ってくる。そこで町の情報を耳にして「三浦おもしろそうじゃん、借りられる物件ないの?」となるようです。
そんな流れを知ってか知らずか、ジュエリー、時計、靴、自転車、鮨や和食などに特化した数々のユニークな専門学校を都内で運営している『水野学園』が、この町に『日本さかな専門学校』を開校しました。生徒が、いけすで魚を育てたり、水生環境や釣りを学ぶ。海鮮や鮨は今、世界的に需要があり、環境への関心も高まっている。ビジネスができる卒業生を生み出してほしいです。マグロだけに依存しないブランディングです。
そういうわけで、『本と屯』は次第にタウン情報のハブとなり、交流の場となり、たとえば「最近、魚の専門学校ができたらしい」なんて話が入ってくる。2023年に開校した『日本さかな専門学校』がそれです。
三崎漁港は昔からマグロ漁で知られ、風情ある漁港や街並み、海釣りや遊覧船観光などで年中人の行き来は多い。でも一見開けて見えても、地域コミュニティは閉ざされた感じで、たとえば、ここでお店を開きたい人が借りられるような物件は1件も存在しないような地域です。ところが『本と屯』には地域の物件情報も入ってきて、不動産屋さん化してきた感じで。おもしろいことをやりたい方がいるなら、と貸主と話がまとまり、新店舗が増えているのです。
2階の美容室も同様です。お客さんの少なくない部分が都内や他地域からなのですが、マグロを食べに来るような客層ではなく、クリエイティブな仕事をしてる人たち。高速を走れば1時間か1時半ぐらいで来られるので、1~2か月に1回ぐらいのスパンで通ってくる。そこで町の情報を耳にして「三浦おもしろそうじゃん、借りられる物件ないの?」となるようです。
そんな流れを知ってか知らずか、ジュエリー、時計、靴、自転車、鮨や和食などに特化した数々のユニークな専門学校を都内で運営している『水野学園』が、この町に『日本さかな専門学校』を開校しました。生徒が、いけすで魚を育てたり、水生環境や釣りを学ぶ。海鮮や鮨は今、世界的に需要があり、環境への関心も高まっている。ビジネスができる卒業生を生み出してほしいです。マグロだけに依存しないブランディングです。