まちづくり勉強会報告

持続可能なまちづくりのために、地方と都市の新しい連携を模索して
立ち上げられた「環境まちづくり支援機構」(通称・まちあす)。
私たちはまず、まちづくりに奔走しているエキスパートを招いて
勉強会を開くことから動き始めました。
4人のエキスパートから私たちに示された未来への道標を、
順次、ここで共有いたします。
【第2回】山川勇一郎さん
さがみこファーム代表
多摩市で地域エネルギー会社の立ち上げに参画。官民共同の市民ファンドによる屋根借り太陽光発電事業を手掛ける。2019年から農業へ参入。ソーラーシェアリング型のブルーベリー観光農園を開園。令和4年度資源エネルギー庁「地域共生型再生エネルギー事業顕彰」受賞。

再エネルギー事業と地域の共生①

1.エネルギーと食物の両方をつくる

はじめまして、山川勇一郎と申します。
東京都多摩市で太陽光発電施設の開発やコンサルティングの『たまエンパワー株式会社』を、神奈川県相模原市で会員制の観光農園事業の『株式会社さがみこファーム』を経営しています。

本日のテーマは「再エネルギー事業における地域共生の考え方」です。
永続的に繰り返し利用できる「再生可能エネルギー」を活用した、相模原市での、地方創生の事業例をお話しします。

弊社の主力事業は、農業用地に支柱を立てて太陽光パネルを設置し、パネル下の農地で産物を育て、収穫物と、発電エネルギーの販売の両方で収益を得る「ソーラーシェアリング」。
生産したエネルギーと食物で、自然と調和した未来を創る」が弊社のミッションです。
相模原市が『ソーラーシェアリング』を受け入れたのは弊社が初でした。
私たちがどんなことを考え、どこに向かってどう動いたことが、地域や地元関係者の変化につながったか。その過程での困難を、どのように乗り越え、実現に至ったのか。過疎地域での社会課題解決型ビジネスの一例として、参考にしていただければと思います。

ちなみに私は、学生の頃から大自然の宝庫・北海道が好きで、自転車で道内を一周したり、道南での渓流釣りに夢中になったり……。ディープな自然と戯れた原体験の持ち主です。クマに襲われそうになったこともありました(笑)。
「中山間地」と呼ばれる「平地から山間地にかけての野山」での人と自然との付き合い方のエッセンスは、このころの経験から吸収できたと思っています。

2-1.エネルギーの地産地消

私が『ソーラーシェアリング』事業を手がけようと考えたきっかけは東日本大震災でした。
それまで気にしてなかった「コンセントの向こう側」への意識が高まり、地元の多摩地域で「市民ファンドによる屋根上の太陽光発電事業」を始めたのです。

今まで日本は、外からのエネルギー資源に頼ってきました。化石燃料を使う限り、富は地域外に流出します。
それだったら「地域でエネルギーを作ろう。〝エネルギーの地産地消〟を実現すれば、地域経済の活性化や雇用の創出、ひいては地域の持続性向上に寄与できる」と、そんな考えに至りました。
地域エネルギー開発の有用性を生かした、新しい「地方創生」です。

再生エネルギーに対する社会意識は、2012年のFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)後、太陽光を中心に広がりました。同時に、無秩序開発による自然破壊、地域との摩擦が、この10年間で顕在化してきています。
そのため、最初のうちは太陽光発電と言うと「いいことしてるよね」という風潮でしたが、最近では次第に「いや、太陽光は……」と言われるようになってきています。

私は「太陽光発電は脱炭素には非常に有効な手段。ただ、設置や運用の仕方、所有形態など〝How〟の部分で問題が多数発生しているので、改善が必要。太陽光発電そのものが悪いわけではない」と考えています。
脱炭素再エネシフトのなかで、どうしていくのがベストなのか、が求められているのが現状だと思います。

たとえば、農地利用には非常に大きなポテンシャルがあります
日本の耕地面積は約440万ha、荒廃農地は約28万haです。
日本の太陽光発電の導入量は2021年現在で約70GW。
仮に荒廃農地の半分に太陽光パネルの遮光率40%のパネルを設置したら70GWの発電が新たに可能です。太陽光発電を倍増できる計算になります。
相模原市での発電開始は5年前。
私は以前から『ソーラーシェアリング』は事業として可能性があると思っていました。でも、都市部で屋根上の太陽光しかやったことがなく、農地を所有している知り合いもおらず、なかなかビジネスにつながらなかった。
それが、事業者とのご縁で、地主さんにお目にかかれて、それがきっかけで今日に至っています。

相模原市は神奈川県最北に位置し、「人」の字のような地形です。
東側は平地で東京都に、西側は山地で山梨県に接しています。
人口72.5万人の政令指定都市で、南区・中央区・緑区の3区があり、東京都に隣接する南区と中央区に約8割の55.7万人が集中。残る緑区の面積は広大で市の約77%を占めるものの人口は約2割、17万人ほどです。
弊社は、その緑区の農村部でソーラーシェアリングを始めました。
もともと「津久井郡4町」と呼ばれ、2006年に広域合併して緑区に編入された農村部です。
交通アクセスは、中央道、圏央道のインターからいずれも車で約15分。この地域(緑区青野原前戸地区)で唯一の学校が小中一貫校の相模原市立青和学園。
生徒数は9学年で64人、学年平均だとわずか7人です(令和5年5月1日現在)。

そういう地域なので「エネルギー・農業・地域の課題解決」の3つが、かなう取り組みにしたいと考え、2020年に初めて発電所を作りました。
そして太陽光パネルの下でブルーベリー栽培を始めました
栽培する作物は、日照、気象、栽培立地、作物特性、生育条件、コストなど、ビジネスとして成り立たせるためには何がいいか? 化石燃料による加温が必要なんて、ばかげたことにならないよう、20種類ぐらいの作物を検討した結果「収穫まで最低約2年かかるけど、ブルーベリーが良さそうだ」と行き着いたのです。