再エネルギー事業と地域の共生③

2-3.広がるコラボレーション

さらに、さまざまな主体とのコラボレーションも図っています。
ソーラーシェアリングはSDGsを学ぶのに適したフィールドで、いろんな体験学習が可能です。
個人でなく企業で学びに来たり、大学の先生がゼミで学生を連れてきたり……。子供から大人まで、来訪者は幅広い。
農業、食、エネルギー、観光、教育など、単体だけでなく〝掛け合わせの相乗効果〟で収益が増えるプロジェクトを考えるうち、個人と組織の連携も生まれ、最初〝点〟だったのが〝線〟になり、〝面〟が徐々にできてきている感じがします。

このイラストは『ソーラーシェアリング』でブルーベリーを栽培し、大勢の人が楽しく集っている絵です。
たとえば、描いてあるホビットハウスは、実際には農地の規制で建てられないですが、もし建てられればEV(電気自動車)の充電をはじめ、さまざまなことができる。こんな〝作りたい世界のイメージ〟を表現してもらいました。
こうやって世界観を共有しながら、いろんな人を巻き込んでいきたいのです。

実例をふたつ紹介します。
ひとつ目は、相模原市が所有しているルノーの小型EV。
なかなか生かしきれてないと聞いたので、これを借りて〝カーボンニュートラルなツーリズム〟を作ることにしました。
熱意ある事業者と一緒に協議会を発足させて、30~40代の人が中心になってワイワイ動いたら、去年、今年と観光庁事業として実現しました。特産品を開発したり、拠点整備したり、モニターツアーでルートを作ったりしています。
模原市が所有しているルノーの小型EV
模原市が所有しているルノーの小型EV
ふたつ目は、地元のラグビーチーム『三菱重工相模原ダイナボアーズ』。
このチームは地域貢献にも熱心で、昨夏はブルーベリーファームに2回も来てくれました。
実は私は、高校時代にラグビーをしていました。知人がフロントにいたりして「いつか、チームとつながれたらいいな」と思っていたら、市の方がつないでくださいました。
「地域に根ざしたクラブチームになりたい」と引き受けてもらえたので、地域の魅力を発信する形で選手とのコラボが始まりました。
地元のラグビーチーム『三菱重工相模原ダイナボアーズ』とのコラボレーション
地元のラグビーチーム『三菱重工相模原ダイナボアーズ』とのコラボレーション

2-4.困難を利点に換える

しかし、順調に進んだ話ばかりではありません。
新しいこと始めようとすると壁にぶち当たります。
一番驚いたのは、いきなり相模原市から「この事業では観光農園はできません」と、言われてしまったことですね。

いったい、どういうことなのか?
太陽光業界の方はご存じと思いますが、『ソーラーシェアリング』施設は建築基準法から除外されているため、建築することは容易にできます。
しかし、国土交通省が出しているソーラーシェアリングに関する技術的助言に、「パネル下では特定の農業者が営農すること」というものがあるのです。
地域により見解は異なりますが、相模原市は〝観光客=不特定多数〟と考え、ソーラーシェアリングの下で観光農園はできない、としたのでしょう。

さて、どうしたものか?
そこで知恵を絞って「会員制」ということにしました。
会員なら「特定多数」。行政の理解も得られ、無事に開園できたのです。
実際、不特定多数の人が押し寄せたら、地域住民とのトラブルにもつながりかねませんが、会員制なら、きめ細かいサービスもでき、マーケティング的にも良かった。年会員制度で法令順守、地域配慮、収益安定化、マーケティング向上と一石四鳥です! 
現在、さがみこファームは個人会員300人、法人会員10社です。

さて、こうして多面的に事業を進めていたら、小売会社を通じて「御社の電気、買えませんか?」と、相模原市内の通販会社である株式会社フレックスさんから問い合わせがきました。
もちろん売ることはできます。FIT電気なので特定卸供給ということで販売可能です。

ただ、私たちは「地域共生」や「地域活性化」目的で事業展開しているので、単に電気を売るのではなく「一緒に地域づくりをしてくれる、立場の違うパートナーさんであれば、お売りできます」とお答えしました。
その際に、法人会員制度を作ったのです。
ビジネスモデルは、法人会員に電気を販売し、福利厚生で農業体験を楽しんでいただく。農産物も販売して地域循環を生み出す、というもの。
〝人・作物・電気〟を地域の中でグルグル回していくことで、地域も会員さんも弊社もハッピーになる。
環境省では「地域循環共生圏」と呼んでいます。
相模原市も、これを標榜していますので、政策にも合致し、株式会社フレックスさんは法人会員第1号誕生となりました。
その後、法人会員も数は増えて、現在10社です。

ほかに、こんなこともありました。
自治会長と会話中に、会長夫人の「大きな台風が来たら不安よね」という心配を知りました。2019年の台風19号で地域が被害を受け「今度送電線が壊れたら陸の孤島になってしまう」と、不安を感じられていたのです。

それで何度も話し合った末、自治会と非常時の電源供給協定を結びました。
自治会にポータブルの蓄電池を備えてもらい、自立電源から充電することにしたのです。

最初、弊社は「全部開放します」と言いましたが、自治会は「現地に着くまでに細い道もあるし、災害時にいろんな人が来ると二次災害になりかねない」とおっしゃる。
自治会への不加入者問題もありました。協定を結んだ自治会の会員のみが利用できると決めて、自治会にポータブルの蓄電池を保持してもらい、毎年持ち回りで変わる役員や地域防災員が、年1回の防災訓練のときに持ってきて充電するということにしました。訓練に組み入れての実施です。弊社のことも知ってもらえるし、非常時のリハーサルにもなる。
これをリリースにまとめてローカル紙に送ったら、なんと一面トップに掲載され、それを読んだ地元の学校の校長先生から「職場体験の受け入れをしてくれませんか」との依頼もきました。
それ以来、毎年地域の小中学生の農作業体験を実施しています。また『探求』という授業で、生徒プロデュースのイベントもやりました。

地元の若者は「この地域には何もない、外に出たい」と考えているようで、弊社のことも「この何にもない地域に、何でこの人たちはわざわざ来たのか」と不思議に思っている。
でも、そんな若者も、農作業体験で地域に対する考え方が変わるのを知りました。農業を、希望や誇りを持てる産業に変え、今の若者が将来働ける場を作りたいです。