まちづくり勉強会報告

持続可能なまちづくりのために、地方と都市の新しい連携を模索して
立ち上げられた「環境まちづくり支援機構」(通称・まちあす)。
私たちは、まず、まちづくりに奔走しているエキスパートを招いて
勉強会を開くことから動き始めました。
4人のエキスパートから私たちに示された未来への道標を、
順次、ここで共有いたします。
【第3回】清瀬和彦さん
元内閣審議官・デジタル田園都市国家構想実現会議事務局次長
1987年 建設省(現・国土交通省)入省後、まちづくり政策、住宅政策、土地政策等に関するポストを歴任。 2021年 内閣官房にて地方創生施策(デジタル田園都市国家構想)の取りまとめに従事。2022年10月より東急不動産ホールディングス株式会社顧問。現職。

これが「デジタル田園都市国家構想」その①

1.地方創生政策を考える背景

私は国土交通省でまちづくり政策などを担当した後、2021年から1年間、総理大臣のお膝元にあたる内閣官房の「デジタル田園都市国家構想実現会議事務局」におりました。職員100人強の組織ですが、各府省の地方創生施策を取りまとめ、政府として総合的に推進する役割を担っておりました。そういう経験から、今回、この勉強会で、「地方創生への国の支援策」についてご説明することになったものと承知しております。

資料のサブタイトルに「デジタル田園都市国家構想を中心に」と入れております。聴き慣れない言葉かもしれませんが、後ほどご説明するように、これは、2021年に岸田政権が肝煎りで打ち出した、新たな地方創生政策の枠組みです。

それではこれから、国の地方創生政策について、以下の4項目に分けて、順にご説明します。
予め申し上げますが、地方創生に関する政策は、多岐にわたる行政分野で実施されております。今回は、あまり各論に入らず、全体のアウトラインをご説明しますので、どんな分野で国の支援があるかを大まかにつかんでいただき、ご関心のある分野については、ご自分で、内閣官房や各省庁のホームページなどで理解を深めていただければと思います。

まず、地方創生政策の背景を示すグラフを、4つお見せします。

一つ目は、日本の人口の長期推移のグラフです。
2008年、日本の総人口はピークに達し、今は急激な減少局面に入っています。
毎年平均50万人以上減少しており、高齢化も進んでいます。
政府は少子化対策に一生懸命取り組んでいますが、さらなる人口減少は避けられない状況です。

二つ目は、地方圏、大都市圏の人口移動のグラフです。
赤が東京圏、紫が大阪圏、緑が名古屋圏、オレンジが地方圏。それぞれの人口転入超過数です。
昭和の高度経済成長期に大都市圏への人口集中のピークがあり、その後、これまでに2回の「人口移動均衡期」があります。
1回目は「1973~80年」。
2度のオイルショックがあり〝地方の時代〟とも言われました。
2回目は「1993~95年」。
バブル経済が崩壊し、東京圏が初めて転出超過になり、地方圏との逆転現象も見られました。
しかし、その後ずっと大都市圏、特に東京圏への転入超過が続いています。
リーマンショックやコロナ禍のパンデミック時に、一時的に縮小しますが、基本的には、東京圏が転入超過、大阪圏、名古屋圏が横ばい、地方圏は転出超過が続いています。

三つ目は、東京圏の年齢階級別の転入超過数グラフです。
水色が15~19歳、緑が20~24歳、黄色が25~29歳です。
転入超過の大多数が15~29歳とわかります。大学進学や就職などで東京圏に出てきたまま戻らない方が多い、ということです。
このグラフには出ていませんが、男女別だと女性の転入超過が多いです。
また、壮年期になると、若干ですが転出超過になっています。

四つ目は、2000年以降の、自治体の人口規模別の人口推移のグラフです。
オレンジが人口1万人未満、水色が1万~5万人の小規模自治体。
2000年を100とすると、すでに2020年で人口が8割~7割まで減少しています。
もう少し大きい人口5万~30万人の自治体も、2040年には、人口が8割~7割に減る見通しです。
50万人以上の大きな自治体でも、2020年以降は減少していきます。
現在人口100万人以上の大都市は、東京都特別区(23区)、横浜市、大阪市、名古屋市、札幌市など、全国で11ありますが、すでに横浜市、札幌市、神戸市、京都市、広島市の5市で人口減少が始まったと新聞記事(2023年10月16日付 日本経済新聞)に出ていました。

私たちは、ここまで見てきたような状況を前提として、地方創生政策を考えなければならないということです。

2.これまでの地方創生政策

2014年は地方創生が大きな政治課題となった年です。
それ以前から地方に関連する政策は様々ありました。「全国総合開発計画」や各地方ブロックの計画、過疎地域や山村、離島といった特定地域の振興法、国の権限や財源を地方に移していく「地方分権」の流れ、首都機能移転や政府機関移転など「地方分散」の試み、特定の地域に限って規制緩和などを行う「特区」構想、さらに2002年には「都市再生特別措置法」、2005年には「地域再生法」が成立しています。これらの施策の多くは、少しずつ形を変えながら現在まで継続しています。

そういう状況の中で、2014年。
有識者グループ「日本創成会議」から「このまま東京一極集中に歯止めがかからず推移したら、将来、全国の多くの地域は、若年女性人口が減少し、消滅してしまう」というショッキングな報告書が出ました。グループの座長だった、元・総務大臣で現・日本郵政社長の増田寛也さんの名を取って「増田レポート」と呼ばれています。消滅可能性がある自治体の名前まで公表されたため、一気に、当時の安倍内閣の政治課題になりました。

それまでの地方創生施策は各省バラバラに進められていましたが、2014年、総理を本部長とし、全閣僚を本部員とする「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、当時の石破茂幹事長が担当大臣となって、政府をあげて地方創生に取り組む体制ができました。
同じく2014年、新法として、「まち・ひと・しごと創生法」が制定されました。20条ほどの法律ですが、地方創生の目的や基本理念を明確にし、政府に総合戦略の閣議決定を義務付け、都道府県や市町村もそれぞれ総合戦略を定め、国はそれを支援する、といった枠組みが定められました。
法律名の「まち・ひと・しごと創生」は、地域において、まちづくり、人材の確保、しごとの創出を一体的に進める、という意味の造語です。
「まち・ひと・しごと創生総合戦略」には、次の4つの基本目標が掲げられました。
その後、2021年まで、基本的にこの枠組みのもとに多様な施策が推進されてきましたが、前にお示ししたグラフで見たように、その後も東京一極集中傾向は続いており、地方創生はまだまだ道半ばという状況です。