まちづくり勉強会報告

持続可能なまちづくりのために、地方と都市の新しい連携を模索して
立ち上げられた「環境まちづくり支援機構」(通称・まちあす)。
私たちは、まず、まちづくりに奔走しているエキスパートを招いて
勉強会を開くことから動き始めました。
4人のエキスパートから私たちに示された未来への道標を、
順次、ここで共有いたします。
【第4回】松岡 斉さん
日本総合研究所 理事長
主に国・自治体・企業の政策や施策、経営方針等策定に係る制度設計、基準づくり、コンサルティングに従事。また、公益性の高いタイムリーな研究テーマに係る自主研究プロジェクトにも主導的に関与・推進。

ジェロントロジーのアプローチを通じた地方創生①

1.地方創生に必須の「美齢学」

松岡斉(ひとし)と申します。
勤務先の「一般財団法人 日本総合研究所」は、公共政策志向のシンクタンクとして、国・地域・地方に関わる政策・施策・課題の分析を多面的に行っています。今日は「地方創生に資する営農型太陽光発電」をテーマにお話しいたします。

「地方創生」で最も重要な課題は、人口問題です。
これは「人口減少」と「高齢化」の両面で考えていく必要があります。

「人口減少」については、移民政策でも取らない限り、どうにも抗えないでしょう。
もう一方の「高齢化」に関しては、これまで高齢者を〝コスト〟と捉えていたのを〝人的資源〟と解釈し直して、〝支えられる側〟ではなく〝支える側〟になっていただくことで解決への道筋が見えてきます。

弊所は「地方創生に資する」取り組みを、学術面と国際的動向を踏まえて調査しました。
その結果「ジェロントロジー(Gerontology)」が必要不可欠なことが明らかになりました。あまり聞きなれない言葉と思いますが「Geron」はギリシャ語で「高齢者」を意味する言葉。ジェロントロジーを辞書で引くと「老年学」ということになります。
しかし、海外では「美齢学」、つまり「美しく年を重ねる学問」と理解されています。
日本を除く世界の主要国では、高齢化を早くから学問として学んでいて、学術的観点からの研究が進められ、自身の人生をより豊かにするためのさまざまな取り組みが行われているのです。

幣所会長の寺島実郎も、2018年8月に、著書『ジェロントロジー宣言』をNHK出版から上梓しました。
『ジェロントロジー宣言』寺島実郎著/NHK出版
『ジェロントロジー宣言』寺島実郎著/NHK出版
そのなかで問題として取り上げているのは「我が国は、世界一高齢化が進行する社会であるにも関わらず、高齢者問題を医療、介護、年金の観点から〝社会的コスト〟と捉えて対策を打っている」ということです。

寺島が『ジェロントロジー宣言』で主張する一番のポイントは、「高齢者が社会を支える側に参画し、主体として活躍できるプラットフォーム作り」が急務だということです。「高齢化社会工学」すなわち「ソーシャルエンジニアリング」が必要なのです。
そこで、私たちは、この年「ジェロントロジー研究協議会」(以下、研究協議会)を設立して、活動を始めました。

なお、ジェロントロジーについては、山野学苑総長だった山野正義さんの著書『美齢学』『ジェロントロジー』なども参考になるかと思います。
(左)『美齢学』朝日新聞出版 (右)『ジェロントロジー』IN通信社 ともに山野正義著
(左)『美齢学』朝日新聞出版 (右)『ジェロントロジー』IN通信社 ともに山野正義著

2.高齢者は、社会を支える生産者

研究協議会のミッションは、冒頭で示した「高齢化をどう解決するか」です。

人口が1億人を突破した1966年頃は、高齢化率が6.6%でした。しかし、1億人を割ると予想される2056年の高齢化率はなんと37.6%。
同じ1億人の人口でも、約4割近い人たちが高齢者になると推計されています。
「人生100年時代」と言われる今、私たちは65歳から100歳まで30年以上生きるわけですから、高齢者が健康を維持して、街づくりなどにどのように参画していくのか。それには、これまでの社会構造を刷新して、高齢者を「社会を支える生産者」として組み込んだ社会づくりが必要になります。

こちらの人口ピラミッドをご覧ください。
左図が従来の人口ピラミッドです。この状態が続くと、現役世代や、その子供世代が多くの高齢者世代を支えきれず、サステナブルな社会構造にならない。

そこで、「ジェロントロジー」のアプローチを通じて、社会構造を転換するのです。
右図のように、人口ピラミッドを逆さまにして、現役世代で高齢者世代を支えるだけでなく、高齢者世代が現役世代と関わるのです。学びの子供世代、稼ぎの現役世代、そして適度に働く高齢者世代が、互いに助け合う社会構造に変えて、持続可能な未来社会を目指します。

高齢者は知識やノウハウ、ネットワークを持っています。
だから、働く場所、活躍する場を提供されると、生きがいや充足感を感じて活動します。非常に貴重な人的資源です。
高齢者が社会に参画することで、現役世代のやりがいや幸福感もより醸成し、子供たちも将来の希望が持てる。つまり好循環をもたらすのです。

私たちの意識を右図の人口構造に変えることで、全世代が健康で活力や幸福感を感じられる、日本にふさわしい社会システムが生まれるでしょう。そこで「ジェロントロジー」という学問体系をバックボーンにして、この好循環システムをどのように構築すれば地方創生につながるか。手探りしながら、今日まで来ております。

私の故郷、徳島県美馬(みま)市では、希望する市民向けに研究協議会が提供する「ジェロントロジー」の基礎を学べる有料講座の受講を推奨しています。なんと、受講料は市の負担。修了すると「ジェロントロジー市民アンバサダー」として認定され、「人生100年時代」を健康で過ごすための担い手として、市の活動への参画や、各々で定めたジェロントロジーに関わる活動を行うことがミッションとなります。最近は若い人の受講も見られ、異なる世代がどのように助け合いながら活動していくか、模索しながら進行中です。