ジェロントロジーのアプローチを通じた地方創生②

3.課題山積、都市郊外地域の高齢化

ここで、意外に見落とされがちな「都市郊外の高齢化」を見てみましょう。
関東圏では1都3県を巡る「国道16号線」沿線が、高齢化問題に直面しています。
1950~60年代、この沿線にたくさんのニュータウンが作られました。神奈川県横浜市・相模原市から、東京都町田市・多摩市・日野市・武蔵村山市を通り、埼玉県ふじみ野市・上尾市・春日部市・三郷市を抜けて、千葉県柏市・白井市・松戸市・八千代市へと至る幹線道路沿いの町に、合計約10万戸の団地が建設され、高度経済成長期にニューファミリーのマイホームとなったのです。
それから半世紀以上過ぎた2015年、沿線の住民の24.8%に当たる236.9万人が、すでに高齢者になった。今後はさらに増えて、2045年には住民の36.2%、実に308.7万人に増える見込みなのです。

特に、多摩ニュータウンを含む多摩市の高齢化は深刻です。
2045年には、高齢者が住民の40.7%の約5万人に及ぶということで、「多摩市」と弊所の寺島が学長を務めております「多摩大学」が、公開講座を開講しました。山梨県内の市とも連携して、受講者の農業経営体験を進めています。

4.日本を救う、ジェロントロジー的パラダイム転換

2018年、研究協議会では、「宗教」「医療・健康」「美容」「金融」「農業」「観光」の6分野にわたる「ジェロントロジー総合講座」を開講しました。65歳を超えるシニア層の新たな活躍の場を作り、活動していくための講座です。

まず「ジェントロジー的パラダイム転換」の考え方とはどういうものか、少し例を挙げます。
「医療・健康」では、これまでは「病気になったら病院に行く」でしたが、今後は「病気にならないように病院に行く」。未病段階で予防に努めることで、一人一人が健康維持を図れます。

「美容」では、例えばこれまでは90歳過ぎて施設に入っている方が口紅をすると「あの人なんなの?」と言われたりしました。しかし、ネイルアートをしたり、髪を美しくまとめたりすることで、オムツが取れると聞きます。
「美容」は人を前向きにする。心が若返って元気がみなぎり、生きるよろこびにつながるのです。とても有効な方法です。医療機関や施設からも「美容が必要」とのご意見をいただいております。

「農業」については、例えば、前述の国道16号線沿いにたくさんの高齢者が住んでおられて、時間の余裕もお持ちです。しかし、故郷から東京に出てきて、郊外に家を持ち、都心の会社へ通勤するという生活を長く送ってきた〝国道16号線沿いの高齢者〟の方々は、農業に関わる機会がない。そういう方々に耕作放棄地問題や農業衰退化解消に関わっていただくには、どのような方法がよいのか、アンケートを実施したうえでいろいろ検討しました。

対象は国道16号線沿線にお住まいの65歳以上の男性5000人、女性5000人、合計1万人。昭和の高度成長期を支えたモーレツサラリーマンの男性と、その奥様といったご夫婦が多いです。
そのためか、退職後「家に自分の居場所がなくて困っている」と回答した男性が目立ちました。専業主婦だった妻は、家事やご近所付き合いが今まで通りあるのですが、朝早くから夜遅くまで都心の会社で働きづめだった男性は蚊帳の外。
夫婦の会話も今ひとつないので、仕方なく、朝から近所の図書館に出かけて新聞や雑誌を読み、昼はデパ地下で試食したりして、午後は別の図書館で過ごし、夕方に帰宅。なにしろ、一日のお小遣いが1000円なので、お金の使い道も限られるのです。

そこで、私たちは着実に「儲かる農業」を実践して、お小遣いを増やして、生きがいにつながるように、「農業と太陽光発電」とで収入がダブルに入るプランを推進しています。
後ほど、先行事例を紹介いたします。講座を修了した方々にも意見を伺い、主要プレイヤーとしてさまざまな協力をしていただいております。

なお、研究協議会の研究フェーズを継承し、実践フェーズへ移行するため、20年に「ジェロントロジー推進機構」を設立し、現在はこの推進機構でプラットフォーム作りを進めております。

5.地域の高齢者が参画できるしくみ作り

地方創生には、地域が元気になって、活性化することが必要です。
そのためには、地域に住んでいる人たち、なかでも「高齢者が志を持って自分たちの地域のためにもう一働き、二働きできる環境づくり」が欠かせません。

外から集客・送客するのではなくて、その地域内で人材を作っていく。
新しい活躍の場を提供することでマーケットが増え、全体として活性化が拡大化する。それには、いろいろな法令が関わってきますので、規制緩和などにも積極的に取り組んでいく必要があると思います。

その全体像をまとめたのが、下図になります。
中央の縦軸の「宗教・こころ」は、志の支えとなるのでとても大切です。
高齢者が「もう自分たちは除け者で、働く場もないよね」とネガティブにならずにすみます。「地域のためにいろんな形で役に立つことが自分のためにもなる」ことを示しています。「医療・健康」「美容」「金融」などとリンクして、お金を増やしたり、農業が成立したりする相関図です。

すでに「ジェロントロジー総合講座」を修了された方を含め、全国で5つの地方自治体で、地方の重要課題を解決する「美容」「医療・健康」「農業」などのアプローチをいろいろと実践しています。

図の下にある「都市近郊、中山間地での農業参画」では、先ほど少し触れましたが、多摩大学の学生が多摩市の高齢者の方々と連れ立って山梨に行き、田植えや稲の刈り取り、野菜果物の育成栽培などに取り組んでいるのが、好例のひとつ。首都圏都市部と山梨で交流を図っているところです。